※この記事は令和8年10月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
相続税には、財産の評価額を下げる特例だけでなく、相続税額そのものから直接差し引ける「税額控除」もいくつか用意されています。
今回は、その中でも相続人に障害のある方がいる場合に使える「障害者控除」について解説します。
相続人が障害者手帳をお持ちの場合、この控除を知っているかどうかで納税額が大きく変わることもあります。
ご自身やご家族に当てはまるかどうか、ぜひ確認してみてください。
今回は、かなり実例に近い形で記載しています。
障害者控除は税理士に依頼する場合は忘れることはないでしょうが、自分で試算する場合、または申告する場合には制度自体を知らないこともあります。
知っているかどうかでかなり相続税額が変わりますので、ご注意を。
なお、相続税に関する他の記事も、あわせてご覧ください。


1.相続人に障害のある方がいる場合の「障害者控除」
社長家内が脳梗塞で倒れて、元気は元気なんだが…。
一部、脚が動かなくてね。
障害者手帳も出ているんだが、これは私の死んだ後の相続に関係するかね?
できるだけ家内や世話をする子供たちに財産を残したいが…。
はい、相続人が一定の障害者に該当する場合には、相続税額から直接一定額を差し引ける「障害者控除」という制度があります。
これは相続税法19条の4に定められた税額控除で、財産の評価額を下げる特例とは異なり、計算した相続税額そのものから控除額を差し引ける点が特徴です。
そのため、他の特例と比べても税負担を軽くする効果が大きい制度といえます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4167.htm
国税庁タックスアンサー No.4167 障害者の税額控除。
①控除を受けられる4つの要件



うちの家内が使える制度なのかい?
子供は健康だからダメかな?
障害者控除を受けるためには、相続開始の時点(お亡くなりになった日)で、次の4つすべてを満たす必要があります。
①相続や遺贈によって財産を取得していること
②その方が法定相続人であること
③財産を取得した時に日本国内に住所があること
④財産を取得した時に障害者に該当すること
特に④は「相続開始の時点」で判定される点に注意が必要です。
相続税の申告時ではなく、お亡くなりになった日に障害者手帳をお持ちだったかどうかで判断します。
社長の場合、配偶者(奥様)が障害者手帳をお持ちということで、亡くなる順番が社長が先であればこの障害者控除の適用があります。
また、奥様の相続財産についてはそもそも配偶者控除という①1億6000万円 ②法定相続分 のいずれか大きい額が控除できるという強い措置があります。
配偶者控除を適用した結果、奥様に相続税がかからない場合には、他の相続人(子供)の相続税に対して適用もできますので、ご安心を。



ほう、面倒を見る立場の子供たちにも使えるなら、ありがたいな。
どのくらいの金額の優遇措置があるのかね?
②「一般障害者」と「特別障害者」で控除額が変わる



控除額はどうやって決まるんですか?
障害の程度によって違うんでしょうか?
障害の程度によって「一般障害者」と「特別障害者」に区分され、控除額の計算式が異なります。
一般障害者の場合は、85歳になるまでの年数1年につき10万円、特別障害者の場合は1年につき20万円で計算します。
1年未満の端数は切り上げて1年として数えます。
例えば、社長の奥様は現在、70歳で、一般障害者ですから…。
85歳-70歳=15年(端数切り上げ)として、15年×10万円=150万円が控除額になります。
相続財産を減少させる小規模宅地や貸付地の制度と異なり、直接に相続税を減額させるので、かなり強い効果です。
A.一般障害者の範囲



「一般障害者」にはどんな方が当てはまりますか?
主に次のいずれかに当てはまる方が一般障害者です。
・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が2級または3級の方
・身体障害者手帳の障害の程度が3級から6級までの方
・知的障害者と判定された方のうち、重度(特別障害者)以外の方
・65歳以上で、上記に準ずる程度の障害があると市区町村長等の認定を受けている方など
このほかにも細かい区分がありますので、詳しくは税務署や税理士にご確認ください。
B.特別障害者の範囲



では「特別障害者」はどう違うんですか?
特別障害者は、一般障害者よりも重い障害がある方が対象です。
・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級の方
・身体障害者手帳の障害の程度が1級または2級の方
・重度の知的障害者と判定された方
・65歳以上で、上記に準ずる程度の障害があると認定を受けている方など
特別障害者に該当すると、控除額が1年につき20万円と、一般障害者の2倍になります。
③控除しきれない場合は扶養義務者からも控除できる



控除額が本人の相続税額より大きい場合はどうなるんですか?
配偶者控除というのがあるので、母の場合には相続税が発生しなさそうですし。
その場合、引ききれなかった残りの金額を、その障害者の方の「扶養義務者」の相続税額から差し引くことができます。
扶養義務者とは、配偶者や直系血族(親・子・孫など)、兄弟姉妹のほか、一定の3親等内の親族をいいます。
例えば、障害者控除額が400万円で本人の相続税額が300万円であれば、残り100万円を扶養義務者の相続税額から控除できます。
なお、控除額の全額を障害者本人が負担する相続税から先に差し引き、それでも余った分だけを扶養義務者から控除する、という順番になります。
④相続税の試算例(障害者控除を使う前の基本ケース)



制度の中身は分かったが、実際の相続税への影響がイメージしづらいな…。
具体的な数字で見せてもらえると助かる。
それでは、次の条件で試算してみましょう。
・相続財産:9,800万円
・相続人:3人(配偶者、子2人)
・基礎控除:4,800万円
・相続財産は法定相続分どおり(配偶者1/2、子が1/4ずつ)に分ける
・小規模宅地、貸付地減額などの他の控除制度はなしと考える
まずは障害者控除を使う前の、基本の相続税を確認しておきます。
A.相続税の総額を求める



最初に、何を計算するんですか?
相続税は、まず「相続税の総額」を求めてから、実際の取得割合で各人に割り振ります。
課税遺産総額は、9,800万円-4,800万円=5,000万円です。
これを法定相続分で分けたと仮定して、それぞれに税率をかけます。
※相続税の計算では、いったん法定相続分で分けて計算します。
これは、相続税額を決定するためのもので、実際の財産の配分とは異なる考え方です。
| 相続人 | 法定相続分の取得額 | 計算(税率15%、控除額50万円) | 税額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 2,500万円 | 2,500万円×15%-50万円 | 325万円 |
| 子A | 1,250万円 | 1,250万円×15%-50万円 | 137.5万円 |
| 子B | 1,250万円 | 1,250万円×15%-50万円 | 137.5万円 |
| 相続税の総額 | 600万円 |
B.実際の取得割合で按分し、配偶者の税額軽減を適用する



総額の600万円は、そのまま3人で分けるんですか?
いいえ、実際に取得した割合で按分します。
今回は法定相続分どおりなので、配偶者300万円、子は150万円ずつです。
さらに配偶者は「配偶者の税額軽減」があり、取得額が法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい額までなら、税額が全額0円になります。
下の表を見ると分かりますが、配偶者の相続財産は4900万円で1億6,000万円以下のため、相続税額は0円となります。
| 相続人 | 取得財産 | 按分後の税額 | 配偶者の税額軽減 | 納付税額 |
|---|---|---|---|---|
| 配偶者 | 4,900万円 | 300万円 | △300万円 | 0円 |
| 子A | 2,450万円 | 150万円 | 150万円 | |
| 子B | 2,450万円 | 150万円 | 150万円 | |
| 合計 | 9,800万円 | 600万円 | 300万円 |
つまり、障害者控除を使う前の相続税は、世帯全体で300万円です。
この子の150万円から、障害者控除をどれだけ差し引けるかがポイントになります。
C.障害者控除を適用する



家内が一般障害者で70歳なんだが、上の方の計算式だと控除が150万円だったかな?
奥様の控除額は、85歳-70歳=15年として、15年×10万円=150万円です。
奥様の相続税は0円ですので、引ききれなかった150万円は、奥様の扶養義務者であるお子さんの相続税額から差し引けます。
お子さん2人の相続税は合計300万円ですので、150万円は全額引くことができます。
お子さん2人への配分は、扶養義務者間の協議で決まります。
ここでは均等(75万円ずつ)として計算します。
| 相続人 | 控除前の納付税額 | 障害者控除 | 納付税額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 0円 | 0円(引く税額がない) | 0円 |
| 子A | 150万円 | △75万円 | 75万円 |
| 子B | 150万円 | △75万円 | 75万円 |
| 合計 | 300万円 | △150万円 | 150万円 |
このように、障害者控除を使うだけで、世帯全体の相続税が300万円から150万円へと半分になりました。
配偶者の税額が0円になるケースでは、子に引き継ぐ形で初めてこの控除が活きる点に注意が必要です。
⑤相続人に障害のある方がいる場合によくある疑問
A.要介護認定を受けているだけでは対象になりますか?



母は要介護認定を受けているんですが、それだけで障害者控除は使えますか?
要介護認定を受けているだけでは、障害者控除の対象にはなりません。
ただし、市区町村に申請して「障害者控除対象者認定書」の交付を受けていれば、障害者控除を適用できます。
心当たりがある場合は、早めに市区町村の窓口に確認してみることをおすすめします。
B.障害者手帳の申請中の場合はどうなりますか?



今、障害者手帳を申請中なんですが、まだ交付されていません。この場合はどうなりますか?
相続開始の時点で手帳がまだ交付されていなくても、相続税の申告書を提出する時までに交付を受けている、または交付を申請していて、医師の診断書によって相続開始時点で該当する程度の障害があったと認められれば、障害者控除の対象にできる場合があります。
手帳の交付が間に合わない見込みであれば、早めに医師の診断書を用意しておくと安心です。
C.障害のある孫に財産を遺す場合はどうなりますか?
障害者控除が使えるのは、財産を取得した方が「法定相続人」である場合に限られます。
通常、お孫さんは法定相続人にあたらないため、遺言で財産を遺しても障害者控除は使えません。
ただし、お孫さんの親(お子さん)がすでに亡くなっていて代襲相続人になっている場合や、お孫さんを養子縁組されている場合は法定相続人に該当するため、障害者控除の対象になります。
2.まとめ



同じ「障害がある」といっても、要件や控除額の計算、扶養義務者からの控除など、確認することが結構多いんですね。
そうですね。
障害者控除は相続税額から直接差し引ける分、うまく使えれば税負担を大きく軽減できる制度です。
一方で、要件の判定時点や法定相続人の範囲、控除額の計算など、間違えやすいポイントも少なくありません。
相続人に障害者手帳をお持ちの方がいる場合は、申告前に一度、税理士にご相談いただくことをおすすめします。
ご自身やご家族が対象になるかどうか気になる方は、お気軽に当事務所までご相談ください。






