※この記事は令和8年9月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
アパート、貸家のように人に貸している土地をお持ちの方から、「貸している土地は相続税の評価額が安くなるって聞いたけど本当ですか?」というご質問をよくいただきます。
以前、駐車場の相続税評価についての記事で「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の詳しい要件については、別の機会にあらためて解説します」とお伝えしていました。
今回は、その「貸付事業用宅地等」の特例について、詳しく解説していきます。
なお、過去の相続・贈与の記事はこちら。


参考までに、小規模宅地等についての相続税の特例について、表にまとめました。
今回は、この色塗りの部分の話ですね。
| 宅地等の利用区分 | 特例の名称 | 限度面積 | 減額される割合 |
|---|---|---|---|
| 事業用の宅地等(貸付事業以外) | 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用の宅地等(法人へ貸付け、その法人の事業用) | 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
| 居住用の宅地等 | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
1.貸付している土地は評価50%減?「貸付事業用宅地等」の特例
2代目(予定)先生、社長が実家の裏にアパートを建てて人に貸しているんですが、これは相続時の貸している土地の評価が下がるんですか?
結論からいうと、要件を満たせば評価額を50%減額できる可能性があります。
これは「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(租税特別措置法69条の4)のうち、「貸付事業用宅地等」と呼ばれる制度です。
アパートや貸家、駐車場など、被相続人が人に貸し付けていた宅地について、200㎡までの部分を50%減額して評価できます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
国税庁タックスアンサー No.4124 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)。
なお、以前に記事にした、「貸家建付地評価」での土地の減額との併用は可能です。
貸家建付地評価は、土地そのものの評価額を下げる制度であり、特定の条件を満たした場合に効果を発揮する小規模宅地等の特例(租税特別措置法)とは、併用が可能となっています。
①対象になるのはどんな宅地?



うちは駐車場なんですが、対象になりますか?
空いている月極駐車場です。
対象になるのは、賃貸アパートや貸家、コインパーキング・月極駐車場など、建物や構築物のある形で人に貸し付けていた宅地です。
更地のまま貸している土地や、アスファルト舗装などのない青空駐車場は対象になりません。
また、相場からかけ離れた低い賃料(固定資産税額程度以下など)で貸していた場合や、相続開始時点で長期間空室のままだった部分も、対象から外れることがあります。
②取得者ごとの要件(誰が相続するかで変わる)と効果
A. の要件(誰が相続するか)
この特例は、宅地を取得した相続人ごとに、次の2つの要件を満たしているかどうかで判定されます。
- 事業継続要件:その宅地等に係る貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限まで引き続きその貸付事業の用に供していること
- 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで保有し続けていること
両方を満たす相続人が取得した部分についてのみ、この特例が適用されます。
B. 効果(減額割合・限度面積)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 限度面積 | 200㎡ |
| 減額割合 | 50% |
特定居住用宅地等(330㎡・80%減)や特定事業用宅地等(400㎡・80%減)と比べると、減額割合・限度面積ともに小さめです。
③相続後に必要な手続き



土地さえ相続すれば、自動的に特例が使えるんですか?
いいえ、相続した後の要件も満たす必要があります。
宅地を取得した相続人が、相続税の申告期限までに貸付事業を引き継ぎ、申告期限までその事業を継続していること、そしてその宅地を申告期限まで保有し続けていることが条件です。
遺産分割が申告期限までに決まっていない場合は、原則として特例が使えませんが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、後日分割が決まった時点で適用を受けられます。
④注意!「相続開始前3年以内」に始めた貸付は対象外



じゃあ、相続対策として今からアパートを建てて貸し出せば、評価が下がるんですか?
実は、そこに大きな落とし穴があります。
平成30年度の税制改正で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地等は、原則としてこの特例の対象から除外されることになりました。
相続直前に慌ててアパートを建てたり、土地を購入して貸し出したりするような、駆け込み的な節税を防ぐための改正です。
⑤例外:3年を超えて「事業的規模」で貸付けていた場合



うちは祖父の代からずっと何棟もアパートを持って貸しているいます。
最近、1棟新規で貸しているんですが、3年縛りに引っかかるんですか?
その場合は、例外にあたる可能性があります。
相続開始の日まで3年を超えて、「事業的規模」で貸付事業を行っていた人が、その事業の一環として3年以内に新たに貸し付けた宅地等については、3年縛りの影響を受けず、特例を受けられます。
事業的規模かどうかは、所得税の取り扱いを参考にした、いわゆる「5棟10室基準」で判定されるのが実務上の目安です。
アパートなど共同住宅なら10室以上、一戸建てなら5棟以上、駐車場なら50台以上(車5台を1室相当として計算)が、事業的規模の一つの目安とされています。



うちは一戸建て2棟と、マンション6室を貸しているんですが…。
その場合、マンション6室は一戸建て3棟相当として計算するので、合計5棟分となり、事業的規模に該当する可能性が高いです。
ただし、この判定は実態を踏まえた総合的な判断になるため、該当しそうな方は早めにご相談ください。
⑥他の宅地等との併用時の注意



先生、うちは自宅の土地とアパートの土地、両方あるんですが、この特例は自宅の特例と一緒に使えますか?
特定居住用宅地等や特定事業用宅地等(貸付事業用宅地等以外のもの)の二つであれば、限度面積を合計730㎡まで完全に併用できます。
ただし、そこに貸付事業用宅地等を組み合わせる場合は、完全併用にはならず、按分計算が必要になります。
つまり、貸付事業用宅地等の特例を利用することで、特定居住用宅地等や特定事業用宅地等の利用部分が減るということ。
どの宅地等から優先して特例を使うかによって最終的な税額が変わってくるため、複数の宅地等をお持ちの場合は、組み合わせごとにシミュレーションして一番有利な選び方を検討することが大切です。
2.まとめ



貸している土地だからといって、なんでも評価が下がるわけじゃないんですね。
そうなんです。
貸付事業用宅地等の特例は、200㎡まで50%の評価減という大きなメリットがある一方で、対象になる宅地の条件や、相続開始前3年以内の新規貸付に関するルールなど、注意すべき点も多い制度です。
とくに、相続対策として新たに賃貸を始めることを検討されている方は、このタイミングのルールを踏まえて計画を立てることが大切です。
ご自身の土地が対象になるかどうか気になる方は、お気軽に当事務所までご相談ください。









