※この記事は令和8年8月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回は「個人事業主が廃業するときの事業税」についてのお話です。
廃業を考えている方から、「もう事業をやめるのに、まだ税金がかかるんですか?」というご相談をいただくことがあります。
今回は、事業税の基本的な仕組みと、廃業時に特に注意したいポイントを整理していきます。
なお、所得税に関する他の記事も、あわせてご覧ください。


1.廃業と事業税の関係で知っておきたいこと
店長佐々木さん!
今度、個人事業を廃業、そのまま法人を設立するお客さんがおりまして。
その人から、個人事業の時の税金って、法人成りするとどうなるのかな?って不思議そうにしていましたが…。
当事務所のお客様は、個人事業、法人の経営者の平均年齢が40代です。
個人事業だけに絞ると平均年齢は30代前半。
事業拡大に伴い、当然に法人化の話が出てきて、実際に法人成りする方も多いです。
その時に「個人事業のときの税金」ってどうなるの?と聞かれることが多いですし、聞かれなければ当事務所側から説明します。
次のようになります。
- 所得税 ⇒ 1月1日~廃止日までの所得を確定申告して納付
- 住民税 ⇒ 1月1日~廃止日までの所得 + 法人成り後の給与について翌年に発生
- 事業税 ⇒ 住民税と考え方は同じ。ただし、廃止年の費用に組み込める。
- 社会保険 ⇒ 健保、年金は法人後の給与についてかかる(原則)。
国保、国民年金から抜けるので、個人事業の廃止後の所得についてはかからない。



へぇ、所得税や住民税は廃止した年の稼ぎに、やっぱり税金かかるんですね。
ただ、事業税と社会保険料だけ、なんか不思議な動きするんですね。
事業税は個人事業最後の年だけ、経費に先に組み込めるという独特の性質があります。
社会保険料については、私が税理士であることから詳しい説明は省きます(社会保険労務士さんが専門家です)。
今回は個人事業最後の年の事業税について焦点をあてます。
廃業した年の所得についても、事業税が課税されます。
ここを知らずに「もう関係ない」と思っていると、後から納税通知書が届いて驚くことになるので、まずは事業税そのものの仕組みから確認していきましょう。
①個人事業税の基本的な仕組み



そもそも「事業税」って、所得税や住民税とは別に払うものなんですか?
個人事業主なら誰でもかかるものなんでしょうか?
個人事業税は、都道府県が法律で定めた70業種(第1種~第3種事業)を営む個人事業主に対して課税する税金です。
逆に言えば、法定業種に当たらない事業であれば、事業税はかかりません。
例えば、農業、漫画家、音楽家、プロアスリート、芸能人などにはかかりません。
また、事業所得等が年間290万円の「事業主控除」以下であれば、非課税となります。
(事業税の計算上は青色申告特別控除65万円がなく、全員に290万円/年の控除が自動適用です。)
税率は業種によって3%~5%の範囲で決まっています。
個人事業を開始した年など収入が少ないときは事業税かかりませんが、その理由は290万円の控除です。
所得税の決算書で、大雑把に青色申告特別控除前の所得が290万円以下なら事業税はかからない可能性が大です。
申告については、3月15日までに所得税の確定申告をしていれば、事業税だけを別に申告する必要はありません。
都道府県税事務所から8月頃に届く納税通知書にもとづいて、8月末と11月末の年2回で納付する形になります。
②廃業時に使える「事業税の見込控除」の特例



廃業した年の事業税がかかるのは分かりましたが、何か負担を軽くする方法はないんですか?
実は、廃業した年に限って使える「事業税の見込控除」という特例があります。
この特例を使うと、廃業年の事業税はもとより、所得税、住民税の負担が少し軽くなります。
本来、事業税は翌年に納税通知書が届いて初めて金額が確定するため、廃業した年の必要経費には入れられないのが原則です。
しかし、廃業してしまうと「翌年」に事業税を払う所得がもうないため、通常の方法では事業税を必要経費に反映できません。
そこで、廃業した年の所得をもとに事業税の課税見込額を計算し、その見込額を廃業した年の必要経費に算入できるようにしたのが、この特例です。
これにより、廃業年の所得税の負担を、実際の事業税額に近づけて軽減することができます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/06.htm
所得税法基本通達37-7 事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込控除。
(事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込控除)
37-7 事業税を課税される事業を営む者が当該事業を廃止した場合における当該廃止した年分の所得につき課税される事業税については、37-6にかかわらず、当該事業税の課税見込額を当該年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができるものとする。この場合において、当該事業税の課税見込額は、次の算式により計算した金額とする。
A・・・事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額
B・・・事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額
R・・・事業税の税率



国税庁の計算式を見ても、サッパリなんですが(笑)
まぁ、個人事業の最後に1度しかやってこない計算式なので……分からない場合は、税理士に確認がお勧めです。
ザックリ言うと、事業税の見込控除を経費にすることで、翌年に通知が来る事業税自体が安くなります。
例:R7年度所得 235万 + 青色申告特別控除 65万 = 300万(事業税の課税標準)
300万 × 5% = 15万(R8年度に納付すべき事業税)
15万を見込控除で経費にすると、実際の令和8年の事業税は、
(300万 - 15万) × 5% = 14.25万



んー、見込控除って、令和8年に払うべき事業税の先取りですよね?
15万を見込控除して、実際に支払う事業税が14.25万だと、何かズレていません?
ズレていますね。
R8年に支払う事業税を先取りし、それで実際の納付額が少なくなるのはアベコベです。
その現象を抑えるために、事業税の税率での割り返しをします。
事業税の見込控除額 (235万 + 65万)× 5% / (1 + 0.05) = 14.28万
実際のR8年度事業税 (300万 - 14.28万) × 5% = 14.28万
ということで、事業税の見込控除額と実際の令和8年度の事業税が、ほぼ一致します。
なお、この見込控除を使わずに確定申告をしてしまい、後日実際の事業税の金額が確定した場合は、その事業税の賦課決定があった日の翌日から2ヵ月以内に「更正の請求」をすることで、納めすぎた所得税の還付を受けられます。
基本的に見込控除を使う方が有利ですが計算式も独特なので、廃業を予定している場合は早めに税理士に相談することをおすすめします。
法人成りが前提の方の場合は、最後の年の事業税の見込控除について、法人での税理士に相談するのが早いですね。
2.まとめ



廃業したら事業税のことは考えなくていいと思っていましたが、そうではないんですね。
見込控除なんて初めて知りました。
そうですね。
廃業した年も事業税は課税されますし、事業主控除は月割りになる、見込控除の特例が使える、といったポイントを押さえておくことが大切です。
特に見込控除は、使うかどうかで税負担が変わってくる部分なので、廃業を考えているタイミングで一度、税理士に相談していただくのがおすすめです。
法人成り、個人事業主の廃業を検討されている方は、今回の内容を参考に、早めに準備を進めてみてください。













