※この記事は令和8年10月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
前回は、同族会社に土地を貸しているケースの「特定同族会社事業用宅地等」についてご紹介しました。
今回は、その個人事業主バージョンともいえる「特定事業用宅地等」について解説します。
なお、土地の評価に関する他の記事も、あわせてご覧ください。


参考までに、小規模宅地等についての相続税の特例について、表にまとめました。
今回は、この色塗りの部分の話ですね。
| 宅地等の利用区分 | 特例の名称 | 限度面積 | 減額される割合 |
|---|---|---|---|
| 事業用の宅地等(貸付事業以外) | 特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用の宅地等(法人へ貸付け、その法人の事業用) | 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用の宅地等 | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
| 居住用の宅地等 | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
1.個人事業主の土地評価80%減の制度?「特定事業用宅地等」の特例
運送屋さん佐々木さん、私の父が個人で工場をやっているんですが、その土地ってその父名義なんですよ。
相続のときの評価ってどうなるんですか?
要件を満たせば評価額を80%減額できる可能性があります。
これも先ほどの特定同族会社事業用宅地等と同じく、租税特別措置法69条の4の「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の一つで、「特定事業用宅地等」と呼ばれます。
被相続人ご自身、または生計を一にする親族が、個人事業(不動産貸付業などの貸付業を除く)の用に供していた宅地等について、400㎡までの部分を80%減額して評価できる制度です。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/sochiho/080708/69_4/01.htm
国税庁 措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)関係通達。
ここでも、要件を「事業の要件」「取得者の要件」に分けて表にまとめておきます。
まずはざっくり全体像をつかんでから、①〜④で一つずつ確認していきましょう。
【事業の要件】
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 事業要件 | 被相続人ご本人、または生計を一にする親族が、相続開始前からその宅地等を事業の用に供していること(不動産貸付業・駐車場業などの「貸付業」は対象外) |
| 新規事業の制限 | 相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は原則対象外(宅地等の上にある減価償却資産の価額が宅地等の価額の15%以上であれば適用可) |
【取得者の要件】
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 事業承継・事業継続要件 | 被相続人の事業だった場合は、取得した親族が申告期限までに事業を引き継ぎ、申告期限まで営業を続けていること。生計を一にする親族の事業だった場合は、その親族が相続開始前から申告期限まで自ら事業を続けていること |
| 保有継続要件 | その宅地等を申告期限まで保有し続けていること |
運送屋さんの場合、仮にお父様が亡くなられた場合には、
・被相続人(父)が生前から行っている工場用の土地(事業の用に供している土地)
・運送屋さん(子・相続人)が父が亡くなられて10か月後の申告期限まで、工場の運営を継いで、続けていること
という状況であれば、特定事業用宅地等の特例により土地の80%評価減が可能となります。
さて、詳しい説明はさらに下で書きます。
①「特定事業用宅地等」とは、誰の事業の土地?



うちは私(息子)が父の店を手伝っているんですが、父名義の土地でも対象になるんですか?
対象になるのは、被相続人ご本人が事業をしていた宅地等だけでなく、被相続人と生計を一にする親族が事業をしていた宅地等も含まれます。
状況が分かりにくいと思いますが、父の土地に子が工場を建てて事業をしているような場合です。
父が亡くなった後に、父の土地は工場を運営している子が受け継ぐ場合に使える、ということです。
ただし、対象となる事業は不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業などの「貸付業」を除いた事業に限られます。
店舗や工場、事務所、医院など、実際にご自身やご家族が事業を営んでいる土地であれば対象になり得ます。
②相続直前に始めた事業の土地は対象外?「3年以内・15%基準」



実は父、亡くなる1年前くらいに新しく事業を始めて、その土地を使い始めたばかりなんです。
それでも対象になりますか?
相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は、原則としてこの特例の対象外とされています。
相続直前に駆け込みで事業を始めて減額を狙う、という租税回避行為を防ぐための規定です。
ただし、その宅地等の上にある建物や機械などの事業用減価償却資産の価額が、宅地等の価額の15%以上であれば、例外的に対象になります。
1億円の評価額の土地であれば、設備投資額が1500万円以上なら可能性があるということです。
実際に一定規模の設備投資をして事業を始めていれば、駆け込みとは言えない、という考え方ですね。
※実際には亡くなられた日の現況、時価により判断します。
亡くなられた日までの設備投資額の合計が15%を超えていれば、可能性は高いですが、建物などは使用・ダメージにより少し評価が下がる可能性もあります。
土地も亡くなった日の時価で換算するので、正確なところは相続税評価をしてみて…ということになります。
制度の適用を考えるなら、ギリギリのラインは狙わないことです。
③取得者要件は「事業を引き継ぐ人」か「もともと事業をしていた人」
取得者要件は、亡くなった方(被相続人)ご本人の事業だったか、生計を一にするご家族の事業だったかで、少し内容が変わります。
ひとつずつ確認しましょう。
A.被相続人ご本人の事業だった場合



父自身が個人事業をしていた土地を、私が相続する場合はどうなりますか?
被相続人ご本人が営んでいた事業用の宅地等を取得した場合は、「事業承継要件」と「保有継続要件」の両方を満たす必要があります。
事業承継要件とは、相続税の申告期限までにその事業を引き継ぎ、申告期限まで営業を続けていることです。
保有継続要件は、その宅地等を申告期限まで保有し続けていることを指します。
B.生計を一にする親族の事業だった場合



私が父と同居していて、父の土地の上で自分の店を出している場合はどうですか?
生計を一にする親族、つまりご相談者ご自身が事業をしていた宅地等については、少し要件が異なります。
事業を「引き継ぐ」のではなく、相続開始前から申告期限まで、ご自身がその事業を続けていることが要件になります(事業継続要件)。
あわせて、その宅地等を申告期限まで保有し続けていることも必要です。
④「特定同族会社事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」との違い



以前紹介してもらった「特定同族会社事業用宅地等」や「貸付事業用宅地等」と、今回の「特定事業用宅地等」って、結局何が違うんですか?
似ているようで、実は「誰が、どんな形で土地を使っているか」で区別されます。
ひとつずつ整理していきますね。
A.特定同族会社事業用宅地等と何が違う?
特定事業用宅地等は、被相続人ご本人や生計を一にする親族が、個人事業として直接その土地の上で事業を行っていた場合の特例です。
一方、特定同族会社事業用宅地等は、土地の名義人自身が事業をしているのではなく、土地を同族会社に貸し、その法人が事業を行っているケースが対象です。
事業の主体が個人事業主なのが特定事業用宅地等、同族会社なのが特定同族会社事業用宅地等です。
個人事業主と法人の違いですね。
取得者に求められる要件も、特定事業用宅地等では「事業の承継・継続」ですが、特定同族会社事業用宅地等では「その法人の申告期限までの役員就任」という点が異なります。
減額割合・限度面積はどちらも400㎡・80%減額で同じです。
B.貸付事業用宅地等と何が違う?
貸付事業用宅地等は、被相続人等が不動産貸付業・駐車場業といった「貸付け」そのものを事業として行っていた宅地等が対象です。
限度面積200㎡・減額割合50%で、特定事業用宅地等(400㎡・80%減額)より優遇幅は小さくなります。
今回の特定事業用宅地等は、あくまで「貸付業以外」の事業を、ご自身やご家族が直接営んでいた場合の話なので、対象となる事業の中身がまず違う、という点を押さえておくとよいでしょう。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
国税庁タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。
2.まとめ



個人事業主でも、要件を満たせば大きく評価を下げられる制度があるんですね。
そうなんです。
特定事業用宅地等は、事業を引き継ぐ方・生計を一にする親族の方それぞれで要件が少し異なりますし、相続開始前3年以内に事業を始めた場合の15%基準など、見落としやすいポイントもあります。
「実家の店や工場を手伝っている」「親と同じ土地で商売をしている」という方は、早めに要件を確認しておくことをおすすめします。
ご自身の土地が対象になるかどうか気になる方は、お気軽に当事務所までご相談ください。





