※この記事は令和8年9月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回は、法人の経営者の方からよくご質問をいただく「社宅」制度についてです。
自宅の家賃を会社の経費にできると聞いたことがある方も多いと思いますが、正しく理解して運用しないと、思わぬ税務リスクにつながることもあります。
なお、法人税に関する他の記事も、あわせてご覧ください。


1.社宅制度とは
「社宅」とは、会社が法人名義で住宅を借り上げ、その住宅を役員や従業員に貸し付ける制度です。
役員、従業員の福利厚生、とくに優秀な人材が遠方で通えない、などの機会損失を防ぐために会社でマンションの一室などを借りて役員、従業員に軽い負担で貸し出すことがよくあります。
今回はその中でも節税を意識した「役員社宅」について説明します。
要件を満たせば、会社が負担した家賃を経費(損金)にできる、役員本人もかなり安い家賃で住めるため、法人税の節税及び役員本人の節約手法として活用されています。
ただし、正しく運用しないと「給与」として課税されてしまうので、ポイントを順番に見ていきましょう。
①社宅制度の仕組みと3つの要件
社長佐々木さん、役員社宅という制度があると聞いたが…。
当社で従業員用に持っている社宅に役員も住めるのかい?
はい、一定の要件を満たせば可能です。
役員社宅として認められるためには、大きく次の3つの要件が必要になります。
- 賃貸借契約は会社(法人)名義で結ぶこと
- 役員から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取ること
- 家賃は会社から貸主へ直接支払うこと
この3つがそろって初めて、会社負担分を経費として計上できます。
逆に言えば、どれか一つでも欠けると、社宅としての取り扱いが認められないおそれがあります。



ちなみにだが…。
今、役員自身が住んでいる自宅を、あとから社宅に切り替えることはできるものかい?
⑤でも書きますが、税務上は「実態」が伴わないと、経費として認められない可能性が高いです。
とくに、「役員自身が住んでいる自宅を会社が購入、その後も役員が住む」のであれば、それは大家=住居人=役員となり、果たして社宅としての実態があるのか?
単なる節税策では?
として、疑われる可能性が高いです。
しかし、「役員自身が住んでいる自宅を会社が購入、役員は別に移り住み、従業員の確保のための社宅として活用する」なら、問題は起きにくいでしょう。
社宅は「優秀な人材の確保、遠方による労働の難しさの解消」が基本です。
その制度の趣旨にのっとっていないと税務調査で否認のリスクが高まります。
②家賃(賃貸料相当額)の計算方法



家賃はいくらに設定すればいいんでしょうか?
全額会社が負担するのはダメなんでしょうか?
結論から言うと、全額会社負担(無償貸与)にしてしまうと、その全額が役員への「給与」として課税されてしまいます。
役員社宅として認められるには、役員から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取る必要があります。
この「賃貸料相当額」は、住宅の規模などによって計算方法が異なり、大きく次の3パターンに分かれます。
- 小規模な住宅(床面積が一定以下のもの)
- 小規模でない自社所有の住宅
- 会社が借り上げている住宅(賃貸物件)
いずれも、建物や敷地の固定資産税課税標準額をもとに計算する仕組みになっており、家賃相場をそのまま使うわけではありません。
正確な金額は、固定資産税評価額を確認したうえで計算する必要があります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm
国税庁タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき。



従業員に社宅を貸す場合は50%負担にしているが…。
役員の計算式はけっこう難しいものだな。
実は、役員と使用人(従業員)とでは取り扱いが少し異なります。
従業員の場合は、賃貸料相当額の50%以上の家賃を受け取っていれば、差額部分は給与として課税されません。
一方、役員の場合はこの「50%基準」は使えず、原則として賃貸料相当額そのものを受け取る必要があります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm
国税庁タックスアンサー No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき。



じゃあ、負担割合は50%にしておけば安心ですね。
実務上、負担割合を分かりやすさから50%に設定してしまう会社も多いのですが、これは役員の場合はあまりお勧めできません。
実際に計算してみると、賃貸料相当額は家賃の20%程度にとどまるケースが多く、50%も負担してしまうと、本来受けられたはずの節税効果を取りこぼしてしまいます。
面倒でも、実際に計算式にあてはめて金額を出すことが大切です。
参考、役員の社宅負担金の計算式
役員に貸与する社宅が小規模な住宅である場合
次の(1)から(3)までの合計額が賃貸料相当額になります。
(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
役員に貸与する社宅が小規模な住宅でない場合
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。
(1)自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12パーセント
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12パーセントではなく、10パーセントを乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6パーセント
(2)他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50パーセントの金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。



むずっ!
これは素人には理解不能ですね。
③制度を使うメリット
役員社宅には、会社側・役員側それぞれに会計的なメリットがあります。
- (会社)会社負担分を経費(損金)にできるため、法人税の負担が軽くなる
- (役員)家賃の一部負担で済むため、可処分所得(手取り)が増える
- (役員)給与を増やすより、社会保険料の負担が増えにくい



なるほど…会社にとっても役員たちにとってもメリットがあるんだな。
役員社宅の検討してみるか…。
そういえば、役員のB氏が「自分の自宅を社宅扱いにできたらなぁ…」と言っていたが…。
④注意点
メリットの大きい制度ですが、いくつか注意点もあります。
- 水道光熱費・駐車場代・引っ越し費用などは対象外で、会社が負担すると給与課税される可能性あり
- 社宅として認められるための社内規定の整備があった方がよい
- 無償で貸し出すと、賃貸料相当額の全額が給与として課税される
- 住宅ローン控除は適用されない
- すでに個人契約している持ち家・賃貸からの切り替えはむずかしい



思っていたより、気を付けることが多いんですね。
そうですね。
制度設計を誤ると、税務調査で否認され、結果的に給与として課税されてしまうリスクもあります。
役員社宅の導入は、状況によりけりでルール化しにくいところがあります。
客観的に見て節税目的のみになっていないこと、役員社宅の条件を満たし、かつ本人負担も適正であることなど、ハードルがいろいろあります。
検討される際は、契約前に必ず顧問税理士に相談することをお勧めします。
⑤持ち家を会社に貸してから社宅として借り直すケース



先ほどの役員B氏の話だが…
自分の持ち家を会社に貸して、その家を社宅として自分が借りる、ということもできるのかな?
かなり難しい、というかできないパターンです。
本人が元々住んでいた自宅をそのまま会社に貸し、同じ本人が同じ家を社宅として借り戻す場合、契約の前後で住み方が変わっていないと、実質的な貸し借りがないとみなされることがあります。
これは、とくに通達などでも表記されていない部分ですが、常識的に考えると単なる節税行為でしかなく、同族会社等の行為又は計算の否認(法人税法第132条)の適用がありえます。
その場合、会社が支払った家賃と受け取った社宅家賃の差額は、社宅ではなく「住宅手当」として給与課税される可能性があります。
賃貸料相当額を計算する前に、まず社宅としての実態があるかどうかを確認することが大切です。
2.まとめ



役員社宅は、うまく使えば会社にも自分にもメリットがありそうだが、自社だけで運用するにはちょっと不安があるな…。
悪いが佐々木先生も規定の運用について、チェック担当で入ってもらえるかな。
はい、もちろんです。
要件を満たして正しく運用すれば、法人税・所得税の両面で有利に働く制度です。
何より、役員、従業員の採用や採用後の福利厚生にプラスに働きます。
ただし、賃貸料相当額の計算や契約名義など、実務上のポイントを押さえておく必要があります。
役員社宅の導入をお考えの方は、契約前にお気軽にご相談ください。











