※この記事は令和6年12月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
前回の「賃上げ促進税制」の回でも登場しましたが、「決算賞与」はうまく使えばかなりの経営上の効果を発揮します。
ただし、法人税法上で損金として成立するためには条件もあり、理解して行わないとリスクのある方法でもあります。
今回は、決算賞与の使い方について解説します。
決算賞与の意味
ふむ、今まで決算のころに支払う賞与のことだと漠然と理解していたが…
この機会に意味を教えてほしい。
税務上の「決算賞与」の意味
いやー、実は「決算賞与」という言葉自体はしっかりとした定義があるわけでもないんです。
ただ、法人税の節税を語る際に出てくる「決算賞与」は、次の意味で使われます。
決算賞与 = 決算日の翌日から1か月以内に支払う賞与
よく考えると、決算日の後で払ってもOKなんですよね。
けっこうすごい制度ですね…。
決算賞与は、決算日の翌日から1か月以内、つまり決算日の後で支払うことができる制度です。
とはいえ、決算日の翌日から1か月以内なら何でもよいわけではありません。
複数の条件をクリアする必要があります。
条件さえしっかりとクリアすれば、便利な制度ですので覚えておきましょう。
広い意味での「決算賞与」
ちなみに、税務上の意味に限られずに「決算賞与」という言葉を使うこともあります。
広い意味では、「決算期近くに支払う賞与」という意味であり、社長さんの認識のとおりです。
決算日前に支払う賞与もそうですし、条件を守って決算日の翌日から1か月以内に支払う賞与もそうです。
なお、決算日前に支払う賞与の場合には、特段条件などありません。
決算日前に利益を見込むことができ、従業員への賞与を決算日前に支払えるのであれば、税務上はリスクがほとんどありません。
決算賞与の条件
さて、我が社も決算賞与を支払う予定だが…
期末(決算日)を超えて支払う場合の注意点を教えてほしい。
はい、決算日を超えて支払う、いわゆる税務上の「決算賞与」については、注意点が多いです。
おおまかに、次の点に注意してください。
- 支給額を、各人別、かつ、同時期に従業員に通知する
- 決算日の翌日から1ヵ月以内に支払うこと
- 支給額につき、未払計上(損金経理)をしていること
国税庁「No.5350 使用人賞与の損金算入時期」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm
※内容について、簡易な言葉に変えております。
うーん、これだけだとよく分からないです…。
ですよね。
一つずつ、注意ポイントも含めて解説します。
1.支給額を、各人別、かつ、同時期に従業員に通知する
一番難しいポイントがこの「支給額を、各人別、かつ、同時期に従業員に通知する」です。
①就業規則と在籍要件
賞与については、特に税法での定めはなく「労働基準法」にその運用方法を委ねられています。
その労働基準法89条において、次のように定められています。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。…
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
あくまで、「10人以上の労働者を使用する」という限定がついていますが、「就業規則」による定めと労働基準監督署への届出が必須です。
そして、一番のリスクポイントは、賞与の支給につき労働規則に「在籍要件」が定められている場合です。
この場合には、年度をまたいだ決算賞与の支給はできません。
例えば、就業規則に「賞与の支給日に在籍していた場合にのみ支給する」というようなことが記載されていた場合がこれに当たります。
3月決算の会社を例にしましょう。
- 3月25日に従業員全員にボーナス支給を通知(4月25日に支給する)
- 従業員Aは3月31日で退職の届出
- その従業員Aには、いったん通知をしたが、労働協約等に「支給日に在籍していること」との要件があるため、4月25日の支払いの時点で従業員Aには支払わなかった
このような場合は確実に決算賞与の損金算入は否認されます。
つまり、経費にならずに法人税等の減税効果がない状態です。
あくまで、決算賞与が年度をまたいで支給しても認められるのは、「決算日において債務が確定しているから」です。
労働協約等に「支給日に在籍していること」との要件がある場合には、決算日において「債務が確定していない」状態となります(上記の例では、4月に入っていきなり退職しても、やはり通知したボーナスを払わないこととなります。)
よって、決算賞与を支払う場合の最初の関門は、就業規則等に「在籍要件」が記載されていないことの確認です。
※在籍要件が就業規則に記載されている会社はそれなりにあります。
単純に、支払う日までに退職した場合には賞与を支払わなくていいからです。
または、社労士さんに就業規則を作ってもらい、そのフォーマットがそもそも在籍要件ありだった(会社も気付いていなかった)、なんてこともあります。
②ボーナスをもらう従業員全員への通知
次に、ボーナスをもらう従業員全員への通知が必要です。
それも、「従業員の側で、その通知を実際に見れる状態にあった、または、見た」という確証が必要です。
つまり、3月決算の会社で言えば、3月中にボーナスの「支給額」「支給日」を従業員本人が見れる状態にある必要があります。
会社の規模や制度にもよりますが、当事務所としては、次のような方法を勧めています。
- 従業員が見ることができるグループウェアや個人アドレスがある場合
⇒ 通知をグループウェアなどで配信する - とくに、ITを利用していない場合
⇒ 決算賞与の通知を作成し、本人から確認印またはサインをもらう
ある程度大きな企業で、グループウェアなどで給与明細を配信している場合には、決算日の前に決算賞与の通知を各人別に配信する方法が確実です。
この場合には、各人別に「見ることができる状態」となりますし、配信記録により決算日前に通知したことを証明できます。
次に、グループウェアのようなITアイテムを利用せず、紙などで通知している場合には、決算賞与の通知を作成し、従業員本人から印またはサインをもらう方法をお勧めしています。
通知だけ作成してあっても、税務調査において「本当に各人に通知したんですか?後で通知だけ作成して、従業員に見せてないのでは?」と疑いをかけられることもあるからです。
いずれの方法を採るにせよ、「各従業員が見た」という証拠があった方が良いです。
③第一条件のまとめ
この「支給額を、各人別、かつ、同時期に従業員に通知する」という点が一番重要なポイントです。
- 在籍要件がないこと
- 確実に従業員全員に通知したという証拠を残すこと
この2点をしっかり守ることが大事です。
2.決算日の翌日から1ヵ月以内に支払うこと
この条件はそのままですね。
決算日の翌日から1ヵ月以内に実際に支払ってください。
未払のままとか、忘れていましたとかはダメです。
決算日が3月31日であれば、4月30日(翌月末)までに支払うこと。
決算日が4月20日であれば、5月20日(翌月の応答日)までに支払うこと。
3.支給額につき、未払計上(損金経理)をしていること
これも大した条件ではありません。
会計上で確実に決算日において「決算賞与分を未払計上しておく」というだけです。
契約税理士がいれば、この点は確実にチェックしてくれるでしょう。
まとめ
なるほど、注意点は多いものの、決算日を超えて支給できるなら余裕が持てていいな…。
そして、決算賞与については、「賃上げ促進税制」の対象になるんだったよね?
そうです。
決算賞与も賃上げ促進税制の対象の給料です。
したがって、決算期において利益が多く出過ぎた場合に、決算賞与として従業員に還元し、かつ、会社は賃上げ促進税制の恩恵を受けることは節税方法としてメリット大ですね。
そのためには、上の条件を守り、税務調査において決算賞与が否認されないことが大切です。
初めて決算賞与を出す会社は事前に契約税理士に条件など問い合わせた方がよいでしょう。
うまく使って、ぜひ従業員に喜ばれてください。
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