※この記事は令和7年5月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回は、大企業では当然のように採用している出張旅費の制度についてです。
大企業では当然のようにある制度ですが、中小企業では採用していない企業の方が多いと思っています。
制度自体を知らない場合もありますし、存在を知っていてもどのように制度設計すればよいか分からないケースもあります。
最初に申し上げておきますが、出張旅費の制度、その中でも特に出張日当については、できれば顧問税理士と相談して制度設計・運用してください。
法人税・所得税・消費税のすべてで有利に働く強い効果のある制度ですが、制度設計がおかしかったり、運用が間違っていれば税務調査で否認もありえます。
会社単独での運用はけっこう危険ですのでご注意を。
なお、他の法人税のブログはこちら。
出張旅費と出張日当について

佐々木先生!
社長の会で「出張旅費制度」なるものについて聞きました!
かなり便利な制度みたいなので、我が社でも取り入れるように社長に進言しようと思いますがいかがでしょう?
当事務所でも、積極的に出張旅費の制度を勧めています。
とはいえ、どんな会社でも有利に働くわけではありません。
理解しないで使えば資金繰りの悪化や税務調査での否認リスクを負いますの。
まずは、出張旅費の制度を簡単に見ていきましょう。
1.出張旅費制度



先生から以前、教えていただいた制度ですよね。
当社でも利用していますが、けっこう便利ですよね。



あれっ!
もう我が社に存在していたんですか!?
気が付かなかった…。
出張旅費の制度は、各社で様々です。
当たり前ですが、社員にもきちんと制度があることを通知している必要があります。
とはいえ、普段出張しない人などは制度があっても気づいていない場合もありますし、制度の条件付けによって使えない場合もありますね。
さて、出張旅費の制度とは、出張に伴う3つの費用「交通費」「宿泊費」「日当」を実費もしくは規定金額で精算する制度です。



そういえば、先月に上司が出張に行ったときに「うまく安いホテル泊まれたから旅費が浮いたよ~。今日はおごったる~。」と息巻いていたような…。
そうです、2代目さんの会社では、当事務所の提言で「交通費」は実費、「宿泊費」「日当」を規定定額で設定しています。



あ、なるほど。
「交通費」「宿泊費」「日当」のそれぞれについて、実費と規定定額を選択できるんですね。
まぁ、「日当」は基本的に規定定額のみですね。
2.出張旅費制度のメリット



うむ、我が社でも佐々木さんに税理士さんが代わってからすぐに「出張旅費制度」を取り入れて、私も満足しているよ。
息子(2代目)のためにも、もう一度制度のメリットを説明して欲しい。
こういった制度は、折に触れて見返したり、検討したりした方が劣化を防ぐために良いものです。
では、出張旅費制度のメリットは主に次のとおりです。
- (会社)旅費の精算がラクになる
- (従業員)出張に伴う費用を弁償でき、不満が減る
- (役員)所得税、社保がかからずに日当を受け取れる
- (会社)法人税、消費税で有利に働く



佐々木先生。
相変わらず、「出張旅費制度」を推しますね。
いやぁ、当事務所のイチ押しの制度なもので(笑)。
そのくらい、活用して欲しい制度なんですよ。
では、メリットを一つずつ。
①(会社)旅費の精算がラクになる
出張旅費制度の本質は、「出張に伴う経費の精算をラクにする」です。
出張の場合、JRやバス、航空機を乗り継ぎ目的地に行き、ホテルに宿泊、出張者が自宅から離れたことにより新聞代や着替え、生活用具(歯ブラシなどの衛生用具や下着など)を現地で揃える必要があります。
これらをイチイチ出張者にレシートを持参させて会社の経理の人が精算させるのは面倒すぎます。
そこで、「定額」でこれらを済ませる意味合いがあります。
例えば、JRなどの公共交通機関はネットで料金を検索できるのでその金額で算出、ホテルは「一泊15,000円」と決め打ちしてその金額を払う、日当つまり出張に伴う雑費(新聞、生活用具など)は「一日5,000円」など定額で済ませてしまう、そうすれば経理の人はイチイチ出張者からレシート類を集めずに済みます。
これは、家族経営の数人の企業では意識しませんが、数百人、数千人の企業になるとかなり効果が大きいです。
というか、こういう「定額精算」の仕組みがなければ経理の人はやってられないでしょう。
②(従業員)出張に伴う費用を弁償でき、不満が減る
出張は当然ですが、普段働いている会社や自宅のエリアを離れて、知らない場所で仕事をします。
となれば、多少なりとも普段と違うというストレスがありますし、出張に伴って日用品(ハブラシ、タオルなど)を購入したり新聞を買ったり、いろいろお金もかかります。
それを「日当」という形で補てんすることで、出張に行く従業員のストレスを和らげることができます。
③(役員)所得税、社保がかからずに日当を受け取れる



先生が言っていましたよね。
日当は税金かからないって。
簡単に言えば「費用弁償」、つまり出張に行く人が出張でかかったであろう費用を会社が補てんしているだけなのです。
日当を受け取っても、「所得税」「社会保険料」の課税対象となりません。
理由は簡単で、「給与」でなくて「日当」だからです。
そして、「日当」は「出張に伴って支出される雑費」に充てるものです。
ですので、「所得税」「社会保険料」はかからないのですね。
そして、中小企業の中でも家族経営レベルの会社では出張制度を上手に使うことでかなりの節税ができますね…。
④(会社)法人税、消費税で有利に働く
会社にとっても、現金が出ていく事象ではありますが、法人税法上で当然に損金となります。
また、消費税の計算でも有利に働きます。
例えば、4,400円の出張日当を代表取締役に支払うとします。
経理処理としては、 旅費 4,400円(うち消費税400円) の経理処理となります。



あれっ?
日当って消費税がかかるんですか?
③で話したとおり、日当は「給与」ではなくて、出張に伴う雑費の補てんです。
その中身は「タオル、歯ブラシセット」「新聞」などの物件費です。
したがって、消費税がかかるという理屈です。
消費税がかかる支出ということは、消費税の計算で控除される額が増え、結果として消費税の納税額が減ります。
3.出張旅費制度のデメリット



佐々木さん、一応デメリットも説明をお願いするよ。
出張旅費制度は便利ですが、当然にデメリットもあります。
- 従業員の数によっては、予想以上に出費が多くなる
- 規定の整備が難しい
- 社内の運用ルールを整備する必要がある
- 空出張の温床にならないように注意が必要
出張旅費制度は当たり前ですが、日当を設定することで出張に伴い会社の出費は多くなります。
したがって、出張に行く従業員の人数や出張の数が多いとかなり支出が多くなる可能性があります。
また、出張旅費制度は「規定を整備」し、「運用ルール」を確立しなければ「出張日当」が否認される恐れがあります。
否認されれば「給与」と扱われるので、役員の場合は法人税法上の損金になりません。
なぜ出張日当が非課税なのか、出張日当と確実に扱われるにはどのような規定と運用ルールが必要なのかを明確に把握して整備する必要があります。
この点、税理士と協同して規定、運用ルールを整備することをお勧めしています。
あと、空出張が行われないように気を付ける必要もありますね。
4.出張旅費制度の根拠
さて、ここでは出張旅費制度の非課税となる根拠法令を示しておきます。
まずは、所得税がかからない根拠。
所得税法 第9条 非課税所得
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(略)
四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合(略)、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
国税庁 法令解釈通達 法第9条《非課税所得》関係 9-3
法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、その旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
※筆者の判断で一部省略しています。
難しいですね…。
次に、消費税がかかる根拠。
国税庁 タックスアンサー No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い
国内の出張または転勤のために、役員または使用人に対して支給した出張旅費、宿泊費、日当については、支給した金額のうちその旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れになります。
(略)
これら課税仕入れとなる金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存により仕入税額控除が可能とされています。
インボイス制度にも対応しており、従業員からインボイスをもらう必要はありません。
5.出張旅費制度の規定整備
出張旅費制度の規定整備については、公開していません。
というか、「会社の規模」「業種」「国外出張の有無」「会社の位置」などによって、規定の内容がかなり変わるので公開しようがないと言った方がいいかもしれません。
ある意味、その会社に合わせたオーダーメイドの規定となります。
また、会社の組織構造によって「株主総会」で決めるか「取締役会」で決めるかなど変わりますし、「交通費」「宿泊費」「日当」のどれを実費にするか規定定額にするか、また、規定定額ならいくらが妥当かが変わります。
日当なんかでは、物価の高い東京都では高くなる傾向にあるでしょうし、物価の低い県では低めの設定になるでしょう。
また、「出張」の定義も大切です。



「出張」の定義ですか…?
「出張」といっても、どのくらいの距離を動けば「出張」となるのか、ということです。
会社の向かいのビルに行ったからといって、普通は「出張」という人はいないでしょう。
どの程度の距離・時間で「出張」となるのかについても各会社で設定が必要です。
合理的に説明できる必要があるので、ここは契約税理士と相談してください。
まとめ



へぇー。
ようやく出張旅費制度のことが分かりました。
あと、自分が出張に行かないから、我が社に制度がないと勘違いしていましたね(笑)。
出張旅費制度は使い勝手が良い制度ですし、当事務所としてもイチ押しの制度です。
ただ、会社の資金繰りや規定の整備の点で、必ず社長さんと相談しながら作成して運用してもらっています。
これを読んでいる方も、できれば単独導入はやめて、税理士と相談して作成することをお勧めします。
出張旅費制度についてもっと知りたい、相談したい方はお気軽にお問い合わせください。