※この記事は令和7年1月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
とある企業の社長さんから「自分の会社で経理処理すると、どの程度税理士費用が安くなるの?そして、会計処理って自分でできるの?」と質問いただきました。
簡単なようで複雑な質問です。
今回は、自計化と記帳代行について記載してみます。
自計化と記帳代行
佐々木さん!
うちの店もできれば自分のところで経理処理してみたいと思っているんです!
他の社長さんと話していると、そういう会社あるみたいだし、自分たちでできた方が何かよさそうだし!
できるかどうか、私は不安ですが…
先生、自分たちで会計処理をすることについて教えてください!
(できれば、私はしたくないです!)
自計化とは、記帳代行とは?
会社を設立すると、ほとんどの会社は税理士に申告作業を依頼するでしょう。
法人の決算申告は個人事業に比べて数段難しく、自分で作成することはかなり難しいです。
もしくは、個人事業主の時代がある人は、記帳代行を依頼することが当然の認識となっているかもしれません。
ただ、日常の会計処理については、「自分で行う」「税理士事務所に依頼する」という選択肢があります。
「自分で経理処理を行う」ことを自計化といい、「税理士事務所に経理処理を依頼する」ことを記帳代行といいます。
どちらが良い、悪いはありませんが、それぞれメリット・デメリットがあります。
自計化のメリット、記帳代行のデメリット
自計化のメリット、記帳代行のデメリット…
どういうこと?
いやぁ…自計化のメリットと記帳代行のデメリットは裏表の関係、ということです。
自計化で良いことは、つまり記帳代行依頼しているときの良くない点ということですね。
- 税理士依頼費用が安くて済む
- 月次損益が早く仕上がる可能性がある
- 自社の経理部門の能力を育てられる
一つ一つ内容を見ていきましょう。
税理士依頼費用が安くて済む
佐々木さんの費用が安くなる、ってことですよね!!
まぁ、そうですね。。。
自計化するということは、日々の売上や経費の処理は自社で行い、一定のタイミングで税理士に内容チェックをお願いするということです。
税理士事務所側もレシートなどを丸ごともらって入力をするよりも、チェックのみを行う方が作業量が少ないです。
作業量が少なければ、税理士顧問料は下がる傾向にあります。
ただし、自社で経理入力した内容にミスが多い場合には、結局チェックする税理士の作業量が多くなるため、さほど料金は変わらないかもしれません。
また、そもそも経理担当のスタッフを増員するなら、記帳代行より高いコストとなる可能性があります。
この点、記帳代行 ⇒ 自計化 によりどの程度、税理士報酬が減額されるかは、契約税理士に尋ねてみましょう。
なお、「お互いに商売人ですから、料金のディスカウントといえど、遠慮なく尋ねてください」というのが当事務所の方針です。
月次損益が早く仕上がる可能性がある
自社で経理処理するのであれば、各売上、仕入、経費の資料が固まりしだい、その場で経理処理が可能です。
しかし、税理士事務所に依頼すれば、その資料を整えて税理士事務所に送付し、税理士事務所が入力作業を行い、その結果が戻ってくるという流れになります。
この場合、「自社 ⇒ 税理士事務所 ⇒ 自社」というタイムラグが発生するため、自計化に比べて記帳代行は月次損益の結果が遅くなりがちです。
ただ、自計化している場合でも、月次処理が遅い、つまり会計担当が他の仕事に追われて経理作業が後回しになる環境だと、かえって記帳代行の方が早い場合があります。
自計化するなら、経理部門の処理の正確性やスピードの育成は必須です。
この点、税理士事務所に経理担当の育成をお願いするようにした方が良いでしょう。
自社の経理部門の能力を育てられる
自計化するということは、単に売上、経費等の会計入力を行うのみならず、「部門分析」「資金計画」などの経営に近い仕事をできるように育てることができます。
もちろん、専門的な会計、財務担当に育てるためには税理士等の専門家から育成してもらう必要があります。
また、会計、財務担当として働けるだけの専門部門としての時間の確保が必要になるため、他の仕事と併用して行わせることには限界があります。
ただ、最初は日々の会計処理から覚えてもらい、次第に年次損益、月次損益の作成、予算管理、資金繰り対応などと範囲を広げていければ、会社としての安定度が増します。
将来的に自社の規模を年商10億など、ある程度の規模まで成長させたい場合には、早めに財務担当を育成すると良いでしょう。
②記帳代行のメリット、自計化のデメリット
今までの話の反対の内容でしょうか?
メリット・デメリットは裏表ですしね?
だいたいそうですね。
すこしニュアンスが違う点もあるので、記載しますね。
税理士依頼費用が高くなる
自計化の逆ですね。
レシート等を丸投げする場合には、税理士事務所の負担が大きくなるため顧問料が高くなるでしょう。
ただ、記帳代行の場合、税理士事務所が作業をするため正確性は担保されます。
月次損益が遅くなる可能性が高い
前述の内容と同じですが、「自社 ⇒ 税理士事務所 ⇒ 自社」という処理の流れになりますので、どうしてもタイムラグが出ます。
通常は、自計化の方が月次損益を知る、という点では早いでしょう。
ただ、会社の経理担当の時間の余裕と能力にもよりますので、自計化しているにも関わらず遅い場合には原因を突き止める必要があります。
自社で経理担当を雇用しない分だけ経費としては安い可能性がある
自計化すれば、税理士費用としては安くなる半面、その経理作業をする担当が必要となります。
通常、パートタイマーを雇用し、月に5日、4時間/日ほど経理処理をしてもらうとしても、20時間ほど必要です。
時給1,500円としても、20時間×1,500円=30,000円程度は必要となります。
また、上記の作業にミスがある場合には時間が増えるかもしれませんし、時間が余ったからと言って経理担当として雇用している人に他の作業をさせれば「辞めます」という可能性もあります。
つまり、自計化により税理士費用が安くなったとしても、経理担当の雇用によりかえって経費や労務管理の手間が増える可能性があります。
これを回避するために、経営者自らが経理をする手もありますが、そうすれば自社の経営に避ける時間は減ります。
自計化と記帳代行、どっちがいいの?
うーん、こう見ると、良い悪いの両方があるんですね。
結局、自計化と記帳代行、どっちがいいんですか!?
これは、「経営者の目指す方向性」「会社の規模」「人材」により変わります。
自計化の難易度
あのー…
自計化って難しいんですかね?
きっと、私が経理作業することになるけど、簿記の資格とか持ってないし…。
「自計化と記帳代行、どっちがいい」の議論の前に、自計化の難易度について考えてみます。
自計化、つまり、「会計ソフトに自社の取引内容を入力すること」は、たしかに簡単ではないでしょう。
我々、税理士は日常的に行っているので、簡単も何もないです。
しかし、会計の世界に触れたことのない人にとっては、「異世界」でしょう。
それくらいに常識が異なります。
でも安心してください。
会計事務所のスタッフでも、「会計事務所は未経験、簿記などの資格なし」という条件で入る人もいます。
つまり、「やる気しだい」ということです。
難しい面もありますが、毎月似たような取引が多い場合には、一度覚えてしまえば難しくありません。
この点も、契約税理士に相談し、どの程度対応フォローアップできるか聞きましょう。
自計化するとなれば、たいていの税理士は前向きに対応してくれます。
(なお、当事務所では、会計ソフト選定~自立 まで一貫してフォローいたします)
やる気はあります!
(本当は仕事増やしたくないけど…)
でも、勉強苦手だから覚えられるかな…。
勉強のできる、できないとはあまり関係ないので大丈夫ですよ。
仕事を覚えるのと一緒で、「実務をしながら覚えていく」が一番の近道です。
とはいえ、会計ソフトを触ったことがない人だと、本当に何したらいいか分からないでしょう。
一番良いのは、最初の数回は少なくとも税理士事務所の人と一緒に入力を経験することです。
一緒に手を動かしていると、すぐに簡単な入力ですとできるようになります。
そこから、「給与入力」「未収・未払計上」「資産購入・売却・除却」などクセのある入力に挑戦していけばよいでしょう。
仮にミスしていても、最終的には税理士チェックが入るので心配はいりません。
自計化に挑戦するタイミング
なるほど!
経理の世界も、我々の仕事と一緒で「慣れ」なんですね!
それで、ウチの店は自計化した方がよいですかね!?
では、「会社の規模」「経営者の目指す方向性」「人材」で考えてみましょうか。
経営者の目指す方向性
まず、経営者の目指す方向性です。
自計化をして、「会社にどんな良い変化を起こしたいのか?」ということです。
例えば、次のような考えで自計化することは良いと思います。
- 会社の経理・財務について相談できる人材の育成
- 月次損益の早期化
- 規模が大きくなった時を見越し、継続して財務分析をしたい
- 後継者の数字に対する訓練
逆に、次の考え方は効果が出ないかも…。
- とにかく、コスト削減
- 他の会社がしているから(たまたま、そういう会社が周りに多かった)
自計化はそれなりにマンパワーを要することです。
やるなら、「わが社の月次損益の早期化を目指すとともに、将来的には儲かっている部門、アイテムの分析ができるようにしたい!」などの意思が欲しいものです。
会社の規模
当事務所の場合、年商で考えるよりも、社員数で考えています。
つまり、「経理」という新しい仕事が増えても問題ないかどうか。
ある程度人数のいる会社であれば、経理を新たに任せる人の既存の仕事を他の人たちに少しずつ割り振る、ということも可能でしょう。
しかし、スタッフが少ない場合には、経理について1人にかかる負荷が大きすぎるとその人から他の人に割り振れず大変です。
新たに人を雇用するのもかなりのコスト増になります。
ここらへん、経理の仕事を受け入れるだけのマンパワーがある規模の会社かは重要ですね。
人材
適性のある人材の有無はけっこう重要です。
経理に向くかどうかは、簿記の資格の有無とはあまり関係ないと思っています。
どちらかと言えば、次のことが重要です。
- 犯罪を犯さない(モラルが高い、お金に支配されない)
- 口が固い
- 内勤を嫌がらない
- 素直であること
前述のとおり、経理の仕事も結局は「慣れ」です。
覚えるのに「早い、遅い」はあれども、いつかは覚えます。
それよりも、会社内部の資金にタッチする仕事ですので、「横領などしない」「他人に軽々しく情報を漏らさない」ことが非常に重要です。
簿記の1級を持っていようが、税理士資格をもっていようが、上記の2つに該当する人は経理に向きません。
そして、経理の仕事は「内勤 = 机に座って行う、単独の仕事」です。
接客が好き、外に出るのが好き、机の前は絶対にイヤ!という人にはけっこう苦痛です。
そして、新たに経理を覚えるなら「素直にやり方を覚える」ことは重要です。
これは、どの仕事でも共通でしょうが、「我がやり方を貫く!」みたいな人はそもそも経理を覚えることができません。
ふむふむ。
うちの店も大きくなってきたし、スタッフさんもやる気ある人が多いし、もっともっと大きな店にしたいし…
行けそうですね!
私としても全力サポートしますよ。
そして、もう一つ重要なことを。
「新たに経理を覚えるスタッフさんには、ぜひとも感謝してください」
会社の指示とはいえ、新しいことを覚えるのは大変でしょうから、感謝の気持ちと環境整備(パソコンなど)は大切です。
新しい仕事が増えてうれしいスタッフはいないでしょうから、そのスタッフの気持ちを汲み取れるかどうかも経営者として重要ですよ。
佐々木先生、経理の仕事のサポート、よろしくお願いします!
あと、店長が感謝してくれなかったら、それも伝えますね!
はい、経理の仕事に慣れるまでフォローしますので安心してください。
店長の感謝の有無も伝えてください、それを聞くのも私の大切な仕事なので。
自計化に興味があり、話を聞いてみたい方はぜひお問い合わせください。
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