※この記事は令和7年1月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回は、個人事業主が家族に給与を支払う方法である「事業専従者給与」について記載します。
家族への給与支払いは「所得税・住民税・事業税の圧縮効果」があるとともに、経営に必要な「営業、バックオフィスなど」を受け持ってもらうことで、事業の運営がスムーズになる可能性があります。
今回は、「事業専従者給与」のメリット、種類、要件などについて記載していきます。
なお、今回の内容には「青色申告」「白色申告」が登場します。
二つの申告方法の違いを知りたい場合にはコチラ。
事業専従者給与のメリット、種類
佐々木さん、事務が忙しくなってきたんで、妻に請求書の作成とかやってもらおうと思っているんですよ。
妻に給料って支払えますかね?
あ、私も聞きたいですね。
高校生の息子に在庫確認や梱包とかやってもらおう、と思っていますけど、給料払えますか?
これは、個人事業主さんからいただく質問の中でトップクラスに多い質問です。
一人身ですと関係ありませんが、結婚している場合だと配偶者に仕事を手伝ってもらいたいという希望のある人がけっこういます。
身内の人の方が「詐欺、横領」をしにくいですし、面接や採用活動なしに仕事してもらえますし。
おまけに、個人事業主さん自体の税金が減りますので、メリットが多いんですね。
しかし、税法上、個人事業主が家族に給与を支払うためには制限があります。
そして、青色申告か白色申告かで違いがあります。
間違えて運用すると税務調査で否認され、多額の追徴税を支払うことになりますので、勉強しておきましょう。
※なお、ここでいう「家族」は「生計を一にする家族」を言います。
「生計を一にする」は、大雑把に言えば「同じサイフで暮らしている人」です。
同居している家族だけでなく、生活費を仕送りしている子供なども当てはまります。
事業専従者給与のメリット
まず、メリットを見ておきましょう。
なぜ、家族に給与を支払いたい個人事業主さんが多いのか分かります。
- 個人事業主さん自身の税金が減る
- 事業運営上のマンパワーが増える
- 相続対策になる
このうち、「個人事業主さん自身の税金が減る」と「事業運営上のマンパワーが増える」のために行う人が大半です。
参考までに、個人事業主さん自身の税金がどの程度減るかを見てみましょう。
①個人事業主Aさん(青色申告、専従者給与なし)
売上:1,000万円
経費:435万円
利益:売上 ー 経費 = 565万円
青色申告特別控除 65万円
課税所得:565万円 ー 65万円 = 500万円
所得税:500万円 × 20% ー 42.75万円 = 57.25万円
②個人事業主Aさん(青色申告、専従者給与あり)
売上:1,000万円
経費:435万円
専従者給与:120万円
利益:売上 ー 経費 ー 専従者給与 = 445万円
青色申告特別控除 65万円
課税所得:565万円 ー 65万円 = 380万円
所得税:380万円 × 20% ー 42.75万円 = 33.25万円
所得税が57.25万円から33.25万円に減少していますね。
24万円も減っていますね。
そうですね。
まぁ、実際には配偶者が専業主婦(主夫)の場合には「配偶者控除」の38万円が利用できますので、差は少し縮まります(パターン①だと7.6万円減少)。
また、事業専従者給与を支払った場合には住民税(10%)、事業税(5%)も減りますので、税金の減少効果はもっと上がりますね(パターン①は64万円増加、②は46万円増加、②が18万円少ない ※概算です)。
事業専従者給与の種類
さっき種類があると言っていましたが、どんな種類があるんですか?
2種類あります。
青色申告の方は「青色事業専従者給与」、白色申告の方は「事業専従者給与」です。
簡単に違いを図にしておきました。
青色事業専従者給与 | (白色)事業専従者給与 | |
---|---|---|
事前の届出 | 必要 | 不要 |
事業従事期間の要件 | 年のうち、6月超(短縮できる場合あり) | 年のうち、6月超 |
給与の上限 | なし | 定額。86万円(または50万円)。 ※上限あり |
源泉徴収義務 | あり | なし |
年齢要件 | 12月末で15歳以上 | |
配偶者(特別)控除 | 適用なし | |
他に仕事を持っている場合 | 基本は適用できない |
では、次に両方の給与を見ていきましょう。
事業専従者給与の要件
うちは青色申告なので、青色事業専従者給与の特性を教えてもらいたいです。
では、青色事業専従者給与から見ていきましょう。
正直なところ、私は実務において(白色)事業専従者給与を使っている人は見たことがありません。
無料税務相談で「あ、そんな制度があるなら来年から使ってみます~」という話があった程度です。
(有料で税理士に依頼する場合は基本青色申告なので、(白色)事業専従者給与はレアなんです…)
青色事業専従者給与
青色申告の届出を出している個人事業主が使うことのできる制度です。
事前の届出が必要です。
青色事業専従者給与に関する届出
青色事業専従者給与に関する届出のサンプルです。
国税庁:A1-11青色事業専従者給与に関する届出手続より
提出期限:
- 新規に事業開始、新規雇用した人
(以下の日付はすべて、「青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年」の日付)
1月15日までに開始、雇用した ⇒ 3月15日までに届出
1月16日~12月31日の間に開始、雇用した ⇒ 開始、雇用した日から2月以内 - 上記以外
3月15日までに届出
届出が必要といっても、上の紙1枚だけです。
記載にあたっての注意事項も別ページにありますので、30分もかからずに書けてしまいます。
電子申告もできますが、紙1枚なので税理士に依頼せずに自分で出すなら紙で記載して提出した方が早いでしょう。
青色事業専従者給与の金額
んー、届出を見ているんですが、「金額(月額)」はどの程度の金額がいいんですかね?
残業代は含みますかね?
「金額(月額)」に関するところは重要です。
記載金額以上の給与を支払った場合(残業代を含む)には経費として認められない可能性が高いです。
ですので、繁忙期に残業がありうるのなら、その残業代を見越して多めの月給にした方がよいでしょう。
なお、金額は「他の人を雇って同じ作業してもらうなら、このくらいの給料を出す」という程度がベストです。
金額の上限はないので、いくらでも高い月給を書くことはできますが、常識から外れていると税務調査で否認される可能性が高いです。
週5のフルタイムの事務で月給25万円(残業代込み)みたいな感じでしょうか。
前述のとおり上限はないので、医者夫婦や弁護士夫婦だったら月給100万円とかもありうるでしょう。
(当事務所では経験がありませんが)
青色事業専従者給与のその他の要件
上記の届出以外に、青色事業専従者給与が成立するためには「その年のうち、6月超」労働してもらう必要があります。
ただし、年の途中で雇用を開始したなどの事情がある場合には、働ける期間の2分の1超で足ります。
また、「実際に専従者に給与を支払う」必要があります。
未払計上のみで支払っていない場合には必要経費にはなりません。
年齢要件もあります。
その年の12月末で15歳未満の方は青色事業専従者にはなれません。
そして、重要な点ですが「青色申告者の営む事業に専ら従事している」必要があります。
簡単に言えば、「個人事業主の事業でだけ働き、その他に職を持っていない、かつ、学生でない」ことです。
時々、「嫁さんが派遣社員で週5働いているけど、土日だけ仕事手伝ってもらうんで日給払えますか?」「うちの息子が学生なんだけど、土日だけ家業を手伝ってもらうんだけど、バイト代出せる?」というような質問をいただきますが、これは青色事業専従者給与として認められないです。
認められるだろうなぁ、というパターンは「個人事業主の事業で週5働き、残りの土日を他でバイトしている」みたいな状況でしょうか。
個人事業主の事業に「専従」していないとダメなんですね。
あ、ということは先ほどの私の質問(高校生の息子に働いてもらう)はダメなんですね…。
そうなりますね…学生の場合は学業に専従していますからね。
(白色)事業専従者給与
前述していますが、私は確定申告において(白色)事業専従者給与を見た経験がありません。
もちろん、世の中には白色申告を自分でされている方もいらっしゃるので、(白色)事業専従者給与を使っている方もいるでしょう。
しかし、税理士事務所に業務を依頼される個人事業主の方は、通常は「青色申告で65万円控除取れるって聞いたので、それでお願いします!」という方がほとんどです。
白色、青色を知らない方であっても、税理士としては青色で65万円控除を取る方が有利なので、そちらを勧めます。
その流れで家族への給与の話になると、自然と青色事業専従者給与の話になるんですよね。
ということで、(白色)事業専従者給与については簡単に説明していきます。
- 事前の届出は必要ない
- 専従者給与額は定額制
配偶者 86万円、配偶者以外の親族 50万円
※上限あり。 - その年のうち6月超を白色申告者の事業に専従すること
青色と違って短縮要件はありません。 - 実際の給与の支払いは関係ない(要件ではない)
- その他、「15歳以上」「個人事業主の事業に専従」「配偶者(特別)控除が使えない」などは青色と同じ
まとめ
我が家の嫁は現在専業主婦なので、青色事業専従者として給与を支払えそうです!
佐々木さん、月給を考えてくるので届出お願いします!
今回の事業専従者給与の記載、どうでしょうか?
個人事業主をしていると便利な制度です。
その反面、いろいろな要件があり、使う際にはよく調べて行う必要があります。
普段税理士に頼まずに自分で申告されている方も、事業専従者給与を使う際には無料相談など行くことをお勧めします。
せっかく配偶者に給与を支払っても、数年後に税務調査があってひっくり返されたら意味がないですから。
おまけのFAQ
個人事業主の方で配偶者に給与を支払いたいと考えている方は気軽にご相談ください。
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