※この記事は令和7年7月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回は「家事費(生活費)」と「事業費(経費)」の区分についてのお話です。
最初に言っておきますが、これは税理士だろうが税務署だろうが「答えは持っていない、グレー」な質問です。
ある意味、事業をしている本人がどの程度の確証を持っているかにかかっている部分です。
税務の中でもとりわけ「グレー」な部分ですね。
なお、過去の所得税のブログはこちらから。
家事費(生活費)と事業費(経費)とは?

佐々木さん!
今更ですが、経費と生活費の区分について教えてください!
同僚が独立しようとしていますが、家賃とかガソリン代とか…
何をどこまで経費にしていいか分からない…
と悩んでいます!
個人事業を始められる方、とくに最近では副業として始める方が非常に多いです。
そして、副業のレベル、独立して個人として活動しているレベルなど各段階で悩みを抱えます。
- アパートの家賃は経費にしていいのかな?
- 営業と家族のお出かけに使っている自動車のガソリン代、車検代などは経費?
- 副業のためにWifiとかスマホを新規に導入したけど、プライベートでも使っているなぁ…
これは、個人事業主あるあるです。
どこまでが事業用の経費なのか?
せっかく個人事業を始めたのだからできるだけ経費にしたい(節税できるから)、でも、後々で税務署にケチをつけられてペナルティ(加算税、延滞税)込みで納税額が多くなるの嫌だしなぁ…。
そのライン(プライベートと経費)はどこにあるの?



先生がいつも言っていますけど、明確な「プライベート」と「経費(事業用)」のラインはないんですよね?
でも、何かアドバイスくださいな!!
1.個人事業主にとっての経費の区分の根拠
たしかに、「家事費(生活費)」と「事業費(経費)」の区分は非常に難しく、答えのない世界です。
どんな場合でも、焦らずに根拠規定(法律や政令、通達など)から見ていきましょう。
面倒ですが、それが正解に近づく第一歩です。
(1)家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。
(例)店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識(見出し「注意事項」の部分)
上記は国税庁のタックスアンサーですが、「家事費(生活費)」と「事業費(経費)」の区分を示している部分です。
明確かどうかはともかく、「家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。」と言っています。
このことから言えることは、
- 納税者が事業に必要であったと言えるものが経費である
- その立証義務は納税者側にある
ということです。
つまり、アパートの家賃にしろ、営業用とプライベート用を兼ねている自動車にしろ、それが「事業に必要であり、経費である」というためには「納税者側で一定の根拠が必要」ということです。
2.根拠の程度



根拠なんて難しいこと言われても…
そんなの分からなくないですか?
「家事費(生活費)」と「事業費(経費)」の区分というと、難しく感じますが、実際にはそうでもありません。
前述のとおり、「グレー」な部分であり、税務署も税理士も答えは持っていません。
(税務調査では、さも答えを持っているような言い方をする調査官もいますが…)
つまり、個人事業主さんが「こういう理由だから、こうなんです!」と言われたら、それを一度は法令や一般常識にはめて考える必要があります。
個人事業主さんの「実態」「実情」が最優先ということですね。



じゃあ、家賃も理由を付ければ100%経費にできますかね!?
いえいえ、あくまで「一般常識」が必要となります。
運送屋さんが自分の借りているアパートを「事務所」として扱い、「このアパート(事務所)はもう運送事業のために借りていますわ~」と言ったとします。



運送屋さん!
私のことですかね(笑)!
でも、「実態としては家族がそのアパートで暮らし、生活を送り、一部を運送事業の総務事務、倉庫」のように扱っていたら…。
当然に家賃の100%が経費にはならないです。
状況によりけりですが、「その賃貸物件で家族が過ごしているのか?、それとも本当に事業用で借りていて生活用物件は別にあるのか?」という実態で結論が変わります。
- 家賃を支払ってアパートを借り、自分+家族や恋人と一緒に暮らしているなら100%経費にはできません。
- 家賃を支払ってアパートを借り、そこは事業用にしか使っていない、家族と暮らす用のアパートは別にある。
それなら、100%経費でしょう。
税務は「実態」が最優先される世界です。
実際に「何の目的でお金を支払い」、「実際にどう使っているか」が重要です。
そして、その実際の状況事態が「一番の根拠」になります。
3.按分(家事費の割合)の程度



佐々木先生。
じゃあ、例えば「その賃貸物件で家族が過ごしている」という状況なら、何割が経費になるんですか?
100%事業に使用しているものであれば、結論は簡単です。
また、完全にプライベート用ならそれも結論は簡単ですね。
問題は、スタッフさんの言う通り、「事業とプライベートの両方に使っているものは、何割が経費になるのか?」です。
最初の文にもどりますが、「税理士だろうが税務署だろうが答えは持っていない、グレー」な部分です。
結論から言えば、「何らかの根拠を持ちましょう」「税理士さんと相談してみましょう」です。



その「何らかの」根拠が難しいですよね?
税理士さんに聞くと教えてもらえますか?
税理士さんのスタイルにもよりますが、たいていの方は「個人事業主さんの確定申告業務」について経験があり、税務調査も踏まえたうえで経験則を持っています。
つまり、「使っている部屋の面積で按分」「使っている部屋の数と生活空間の数の割合で」など、何らかの基準でのアドバイスが可能と思います。
もちろん、個人事業主さん側で「一戸建て4LDKのうち、1部屋は事務所にして、LDKは来客用にも使っています」「だから40%(4部屋とLDKの使用割合を加味して)です」など、ある程度合理的に言えればそれで成り立ちます。
4.非常識な按分割合は?



個人事業主さん側である程度の根拠を言っていいなら、経費の割合を多くする方がいいんじゃないですか?
経費の割合が多ければ、当然に所得税、住民税、社会保険料など下がりますね。
でも、さすがに理屈が通らないような割合は許されません。
上記の例で言えば、「一戸建て4LDKのうち、1部屋は事務所にして、LDKは来客用にも使っています」で経費の割合を80%にしていたら、「4部屋のうち1部屋しか事業に使っていない、そして共有部分であるLDKを按分しても80%事業用ってどういう理屈?」と常識的に思われたら、それはおかしいです。
「税理士さんに相談して」という部分には、こういう「個人事業主さんは良いと思っている、けど、一般的に聞いたらおかしい、つまり税務署だってツッコむでしょ」という部分を発見するためにも必要だと思います。
もちろん、「個人事業主さんの考え方では、経費の部分が少なすぎるんでは?」というアドバイスもあり得ますね。
家事費(生活費)と事業費(経費)の区分のまとめ



うーん、正直なことを言えば、「分かったようで分からない」です。
同じ状況でも個人事業主さんの考え方や税理士さんのアドバイスによって割合が変わりそうですね。
繰り返しになりますが、「税理士だろうが税務署だろうが答えは持っていない、グレー」な部分です。
ということは、関わる人たちによって結果はズレます。
個人事業主さんの考え、税理士さんのアドバイスや経験則、税務調査官の許容度や状況判断…様々な要素で判断がブレます。
だからこそ、こういったグレーな部分には税理士の判断力や経験値が求められると思っています。
このような場面こそが「税理士としての考え方、経験値」の見せ所と言ってもいいかも。
家賃以外にも、携帯電話、Wifi、車両関係の諸費用、果てはスーツの購入代まで、個人事業主さんの実態に合わせて結果は変わります。
経営の基本は「一人で考えずにいろいろな人の意見を聞く」「納得できる(感覚でなく、根拠)意見を重要視する」と思っています。
個人事業主さんのあいまいな経費について、一度税理士に相談してみると発見があるかもしれません。