こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
今回はこれから法人を作る(作るかもしれない)という個人事業主さんや個人の方に向けての内容です。
これから会社を作るという人がよく悩む、または分からないという点で「株式会社と合同会社は何が違うの?」「株式会社と合同会社でどっちが有利なの?」というところがあります。
答えはない質問ですが、メリット・デメリットについて整理し、当事務所なりの答えを出します。


株式会社と合同会社の違い

最近、私の友人が「合同会社」を作ったんですよ。
そこでふと、「合同会社って何だろう?」と疑問を抱いたのですが…。
実際に株式会社と合同会社で何が違うんですかね?
最近は、「合同会社」の設立も増えてきました。
当事務所に相談される方は、新設法人の方が多いのですが、「株式会社」と「合同会社」で半々くらいです。
これらの方は、「新規設立にあたって税理士を探して、当事務所にお声掛けいただいた」方たちです。
しかし、当事務所で個人事業主をされていて、新規設立される方が選ぶのは「株式会社」がほぼ100%です。
この理由について、両方の組織の特徴を語りつつ、当事務所の考え方を提示します。
※なお、あくまで「税務」「経営」に絞って書きます。
組織論や会社法の世界はまた他の方の専門記事を見られてください。
①結論
はっきり言いますと、当事務所では「合同会社」を勧めることはありません。



断言しますね!?
はい、「ランニング」「知名度」「事業承継」など全般的に考えて、「今のところ、明確なメリットがほぼないから」です。
②合同会社の特徴



あら、先に合同会社の特徴を書くんですか?
佐々木先生のお勧めなんですか?
いえいえ、結論から言うと合同会社はお勧めしていません。
でも、世間的には「合同会社」って何??という声が多いので、合同会社から書きます。
A.合同会社の設立時の手続き、費用
当事務所の実感ですが、合同会社の設立をする人の大半が「設立費用が安い」から合同会社を選んでいます。
合同会社の特徴の一つが「設立費用(イニシャル)」が安く済むということです。
法定費用(登録免許税)が6万円(資本金×0.7%だが、最低ラインが6万円)、定款の印紙が4万円(電子定款は0円)、司法書士さんに依頼したとしても20万円程度で設立できます。
そして、ほとんどの方にとって、合同会社を設立する状態は次のような状態です。
- 個人事業主から法人へステップアップ
- 新規に事業を開始し、法人を設立する(個人を経ず、最初から法人状態)
他にも、「親会社、または、その株主がサブ会社を設立する」などの場合もありますが、そのような場合はほぼ確実に「株式会社」を選ぶので、除外します。
簡潔に言うと、「お金がない状態のときに会社を設立すると、イニシャルの安い合同会社を選びやすい」ということです。
B.合同会社のメリット
簡潔にメリットを書きます。
設立費用が株式会社より10万円程度安く済む
現在のところ、これだけしか当事務所では浮かびません。
「経営の自由度が高い」「配当の自由度が高い」「意思決定スピードが早い」…そんなことを書いている記事もありますが、中小企業、とくに同族会社では「意味がない」レベルです。
「ランニング費用」について、合同会社も株式会社も変わりませんし、役員を増減する際に出資を基本とする分だけ合同会社の方が高くつく場合もあります。
合同会社は役員の任期がないので、株式会社で10年に1度必要となる登記が必要ないというメリットも一応ありますが、10年に一度、司法書士さんに依頼しても数万円のことをメリットと言いますかね?
C.合同会社のデメリット
反対に、合同会社のデメリットはけっこう多いです。
- 対外的な信頼度でソンする可能性あり
- 金融機関への対応でソンする可能性あり
- 役員の増減が手間
- 相続時の対応が難しい面がある
a.対外的な信頼度でソンする可能性あり
まず、合同会社は2025年現在においても、認知度がいまいちです。
東京あたりは浸透しているかもしれませんが、私のように新潟市という地方都市においては「合同会社ってなに?」という疑問をもらうことが大半です。
合同会社の制度を詳しく知っているのは税理士か司法書士さんくらいじゃないでしょうか。
株式会社の社長さんや、ある程度老舗の大きな会社の部長さんクラスですと「合同会社=個人と大して変わらない」という認識で、それだけで第一印象でマイナスの可能性もあります。
従業員を募集する際にも「合同会社=何かよく分からない…」で敬遠される可能性もあります。
もちろん、会社としての知名度、もしくは社長自体の知名度が上がれば、このような点は払拭されますが初見でソンする可能性は否めません。
ついでに、合同会社の場合は「代表取締役」とは名乗れません。
「代表社員」というビミョーな言い方(株式会社の従業員が「社員」なので、代表社員だと会社の代表って雰囲気ないですよね)になります…。
会社ではあるので「社長」という言い方はOKですけど。
b.金融機関への対応でソンする可能性あり
これも上の理由と似ています。
単純に「個人の延長線上」と思われる可能性があります。
もちろん、金融機関の融資担当は「株式会社も合同会社も中身が大切、ひいきはないです」と言ってくれると思いますが、内心「なんで合同会社にしたんだろう…」という疑問は抱かれると思います。
当然、中身がしっかりしていて、決算書の内容や自社の将来性、環境要因などきっちりと話せれば融資に問題はありません。
c.役員の増減が手間
税理士の視点で言うと、この点がけっこうデメリットです。
会社が軌道に乗り、利益がしっかりと出るようになると次に節税や役員の増員を考えるようになります。
節税対策で即時効果が出るのが「家族を役員(非常勤含む)にして収入を分散する」ということですが、その際にわざわざ「出資」もしくは「だれかの出資持分の買い取り」が必要となります。
役員の増減のたびに「資本部分」に手を入れなければならないことが正直手間ですし、余計な作業です。
当然に司法書士さんを頼むにしても、株式会社で役員増減させるだけよりも手数料は高くなります。
というか、司法書士さんの手数料うんぬんよりも、出資の配分や効果を経営者が考える必要がある点が手間です。
出資の意味や効果を考えて経営をする経営者は基本的にいませんので、役員を増減させる際に初めて考えることとなります。
でも、税理士がその説明をしてもいまいち伝わらないこともありますし、役員候補者から「出資しなきゃいけないなら、役員をやらない」って言われたんだけど…と相談を受けることもあります。
もちろん出資持分は1円でもOKなので、さほど問題ないという考え方もできますが…出資もしくは持ち分の買い取りが必要というだけで敬遠される場合もありますね。
株式会社にはない苦労ポイントです。
d.相続時の対応が難しい面がある
現在、合同会社を設立される方は30代、40代の若い方が多いかと思いますので「相続のことなんて関係ないわね」という人が多いと思います。
ただ、合同会社の出資は株式会社の株式と違って「自動で相続財産にはなりません」。
定款に「社員の地位の承継」の条項があれば別ですが、そういった条項がなければ「出資の払い戻し」の対応となります。
極端な話、お父さんの作った合同会社(父一人が社員)を承継しよう、と考えてもお父さんが亡くなった瞬間にその合同会社は「社員がゼロ」となり、解散しなければいけない事態もあり得ます。
このほか、「社員の地位の承継」の条項があった場合においても、複数の相続人がいる場合にはいったん全員が社員となるなど、「会社の出資と経営者の地位が一体となっている」分だけ相続・事業承継の際に面倒が多いですね。
③株式会社の特徴



おっ、株式会社の特徴はぜひ教えてほしいです。
あまり普段考えることないですし。
親から会社を引き継ぐなど、最初からある株式会社に入社する場合は設立のことなどが分からないことも多いです。
また、普段は役員の増減などないでしょうから、組織構成についても意識する機会は少ないでしょう。
A.株式会社のメリット
株式会社は合同会社に比べれば、税理士としてはメリットの多い組織形態です。
メインとなる部分を羅列してみますね。
- 役員の増減が手間がかからない
- 「代表取締役」と名乗れる
- 初見でソンをする可能性が低い
a.役員の増減が手間がかからない
株式会社のメリットの一つがこれです。
資本と経営が分離されているので、役員を追加するときには登記作業のみで済みます。
合同会社の場合には資本の出資もしくは買い取りが必要となり、その点をどうするか検討する必要がありますが、株式会社の場合には役員登記するだけです。
資本金にも変化はありませんので、登記費用も自分でやれば1万円(資本金1億円以下の会社の場合)だけで済みますね。
b.「代表取締役」と名乗れる
会社を設立するときに少なからず「代表取締役と名乗りたい」という希望はあります。
体面だけの話ではありますが、私自身も会社設立するなら「代表取締役」と名乗りたいです(笑)。
合同会社の場合には「代表社員」という言い方になりますので、イマイチ締まりませんね…。
c.初見でソンをする可能性が低い
合同会社のところで「合同会社って何?」と聞かれることが多いと話しました。
これに対し、株式会社の場合には「株式会社って何?」と聞かれるということはほぼありません。
取引先、金融機関、従業員応募者などに対して「合同会社って何だろう…」「何で合同会社にしたんだろう…」と思われることはないでしょう。
つまり、初見でソンをする可能性が低いということです。
d.相続において自動解散することなく、相続手続きを行うことができる
株式会社の場合には、株主が亡くなっても株式が相続人に引き継がれます。
合同会社の場合のように出資者不在(=経営者不在)により自動解散することはありません。
会社を相続人が引き継ぐか、清算させるかはその時に選択することができます。
B.株式会社のデメリット
株式会社のデメリットは基本的に一つです。
設立時に合同会社より多く費用がかかる、ということ。
だいたい、合同会社より10万円程度多くかかります。
その程度ですね。
④当事務所の考え方



結局、佐々木先生の事務所では株式会社を推しているんですっけ?
はい、当事務所では基本的に「株式会社」の設立をお勧めしています。
A.設立を相談された場合
個人事業主や新規開業の方に設立について相談された場合には、
①「会社」と「個人事業主」の違い
②「株式会社」と「合同会社」の違い
③設立費用や決めておくべきこと
以上を説明して、司法書士さんにつなぐ形です。
B.合同会社を勧める場合



合同会社を勧める場合ってあるんですか?
「株式会社」と「合同会社」のどちらが良いか聞かれたら、基本的に「株式会社」と答えます。
しかし、特定の条件下で「合同会社の方が合っているかもしれませんね」、と答えることはあります。
- BtoCの業種で屋号をメインで使う
- 家族節税など役員に変更が起きなさそう
- 子供への事業承継予定がなく、社長引退=解散となる予定
上の条件をすべて満たしている場合には「合同会社でもいいんじゃないですか」という回答になります。
「BtoCの業種で屋号をメインで使う」というのは、「美容室」「整体」「飲食店」「居酒屋、スナック」のような屋号をメインで使う業種です。
「株式会社ハル」という表示でなく「居酒屋ハル」のような見せ方で消費者に伝えている業種ですね。
この場合には「株式会社」「合同会社」という表示自体を消費者に見せませんので、「会社」であればどちらでもいい、という考え方ができます。
また、経営者一人で役員をし、血族はみな他の仕事に就いていて役員として登記する予定がなければ「合同会社」でも手間はないです。
そして、経営者が会社を起こしたものの、特に親族に引き継ぐ予定などなく、経営者が70歳など一定のタイミングで退職金をもらって会社を清算する予定ならば、事業承継を考える必要はありません。
この場合は合同会社でも特に問題ないですね。
ということで、限られた条件とはなりますが、合同会社でも不都合はないパターンもあります。
ただ、設立時の10万円の負担が気にならない場合は、どのような状況でも「株式会社」を勧めますね。
まとめ



あらためて考えると「株式会社」「合同会社」ってけっこう違うところがあるんですね。
はい、設立時くらいしか考えるときはありませんが、きちんと考えて選んだ方が良いポイントです。
「合同会社」から「株式会社」への組織変更も可能ですが、費用もかかるので、やはり最初に5年10年先を見越して選択した方が良いですね。
そして、会社を設立するなら、よほど自分で調べて行うのでない限り「税理士」「司法書士」に相談し、特徴や違いを知ってから設立した方がよいです。
会社設立の委託は「司法書士」にしかできませんし、設立後の届出や役員報酬などのアドバイスは「税理士」の得意とするところです。
無料相談も可能な事務所もありますので、気軽に相談されてください。
もちろん、当事務所も無料相談の受付しております。