※この記事は令和7年6月現在の法令に基づいて作成しています。
こんにちは、新潟市で活動しているハル税理士事務所、税理士の佐々木です。
ちょうど現在(令和7年6月)、過去10年無申告の方の納税、申告相談を受け、無事に申告が終わりました。
無申告の相談を受けた際の結論としては、当然に「遡って申告・納税する」の一択となります。
ですが、その際に気を付けるべき点について、分かる範囲で記載しておきます。
なお、過去の所得税のブログはこちらから。
無申告の対応方法

「無申告の対応方法」という表題ですが…
これって、税理士さんに頼らずに自分で何とかできるものでしょうか?
はっきり言いますと、税理士さんにお願いすべき案件です。
理由は下記のとおりです。
- 無申告時代の証憑がない場合が多い
- 消費税の納税義務者かどうかの判断ができない
- どこまで経費に計上していいか判断が付かない
(入れられる経費を入れない可能性がある) - 自主申告後に税務調査が来る可能性がある
①無申告は悪いこと?



無申告って…
税金払っていないのは許せないです!!
まず、個人事業主や副業の方で無申告の方が一定数いるのは間違いありません。
そして、無申告は「悪いこと」か?
まぁ、「法律違反」であることは間違いありませんね。
そして、皆が払っている税金・社会保険料を正しく支払っていないことは、まぁ「良くないこと」です。
ただ、関係のない人が責めるものではないと思っています。
そして、「無申告」であることについて、本人が「これはいかん」と気づき、「どうすれば良いのか???」と悩んだ際に、「責める」よりも「これからどうすれば良いのか」について考えるべきと思います。
つまり、「無申告が悪いことかどうか」は考える必要がありません。
本人は「とにかくこれからどうするか」を税理士さんと話あうべきです。
(一人で考えても、数年間無申告の場合は意味がありませんので、税理士に相談されてください)
②実例:個人事業主Dさんのケース



先生、今回は10年間無申告ということで…。
そんなこともあるんですね…。
A.個人事業主Dさんの状態
今回のDさんは約10年近く無申告でした。
これは、けっこうレアケースと思います。
普通は、その途中で発覚し、税務署から通知があり、強制的に納税している場面がほとんどです。
つまり、ある意味でラッキーだったケースですね。
とはいえ、本当にラッキーだったわけではありません。
【所得税】無申告の場合の対応とペナルティ
上記の記事でも書きましたが、無申告の場合には青色申告特別控除などの特典が使えない、消費税の納税義務がある場合にも原則的な方法を使うしかない、さらにペナルティが課される。
ということで、甚大なダメージを負うことがほとんどです。
- 青色申告特別控除(65万円の控除)が使えない
- 消費税の納税義務がある場合に簡易課税制度を選択できない
- 延滞税、加算税に加え、住民税・国保が追ってダメージあり



いろんなダメージがあるんですね…。
はっきり言って、普通に毎年申告していた方が、納税額は少ないです。
さらに、過去の分が一気に襲い掛かってくるので、預金が足りない場合が一番まずいです。
税については自己破産もききませんので、延納をお願いして分割で払うしかないです。
そして、ペナルティも含め、どの程度の負担になるかは、本当に千差万別です。
Dさんの場合は、過去の証憑(レシートなど)を数年分ほとんど保管されていました。
(事業用のレシートだけでなく、とにかくレシート類を保管していた)
また、売上入金が振込のみのBtoBの事業であったため、税理士としては「推定」による収入・支出の計上(本来はダメダメです)を避け、実態による計上をすることができました。



無申告の人は請求書やレシートを持っていないイメージですが…。
その場合はどうするんですか?
「推定」という方法もありますが、これは本来税務署にしか許されていません。
したがって、本人からできるだけ詳しく売上や経費の状況を聞いて、それを再現する形をとるしかないですね。
結局、「推定」じゃん!と言われるとそれまでですが、当事務所では「預金通帳の残高の増減」「生活状況」などからできるだけ「実態に即した」収支内訳書にするよう心掛けています。
B.今回のポイント



結局、Dさんという方の申告は無事に終わったんですか?
無事に終わりました。
過去5年分のみ申告しました(過去3年分という手もありますが、ご本人と相談のうえ、過去5年分としました)。



10年無申告だったのに、過去5年分だけでいいんですか?
国税の時効がありますので、過去5年の申告です。
とはいえ、ペナルティ、特典が使えない、という点を考慮すると実際には10年分をまとめて払うようなものです。
別にラッキーではありません。
また、預金のある方でしたので、国税分は無事に払い終わりました。
加算税と延滞税も問題なく払えるでしょう。
また、遅れてやってくる住民税、国保(国税より全然多い…)についても、おそらく支払える余力がありそうです。



今回、無事に終わったポイントって何ですか?
- 過去の証憑(レシート類)を保管していた
- 売上に現金取引がなく、預金通帳も保管されていたため、論拠のある決算書を作成できた
- 過去の売上の状況が「消費税の納税義務者=年1,000万円」に達するほどでなかった
(正確には、1年分だけ消費税の納税義務がある程度だった) - 税務署から通知が来る前に対処できた
- 納税できるだけの預金があった
すべて大切な要素ですが、「税務署から通知が来る前に対処できた」は大きいです。
電話通知があるだけでもペナルティが増えますし、現況調査となれば「最大7年前」まで遡って課税、ということもありえます。
ペナルティが最低限で済んでいるので、何とかなった事例でした。
なお、税理士なしで税務署に相談して対処すれば無料…のような気もしますが、税務署に相談した後で申告するまでに調査に入るかもしれません。
お勧めはできません。
また、Dさんについては家族構成など5年前から詳しく聞き、扶養控除や障害者控除、白色事業専従者控除など、細かく充てて納税額を減らしています。
そのような細かな控除も考えると、税理士に相談した方が良いと思います。
(おそらく、税務署に聞く場合は、ポイントを絞って聞かないと教えてくれませんし、税務署側も全般的な減税のための方法を伝える組織ではありません)
C.税務調査はある?



これって税務調査は来るんですか?
過去の無申告がある場合の税務調査の確率…。
これは正直よく分かりません。
税理士が代理申告していれば可能性はそこまで高くないはずですが、自主申告で過去数年まとめてしていると可能性はそれなりに高いと思います。
当然、今回の申告は私の税務代理権限を付けていますので確率は高くないと思いますが…分かりませんね。
まぁ、来たとしても、証憑類に基づいて作成しましたので、さほど心配していません。
今回の申告の感想



先生、お疲れさまでした。
レシートを仕分けるのが大変だったらしいですが…。
Dさん、レシートを捨てないでいてくれたおかげで論拠のある収支内訳書、申告書を作れました。
反面、日常生活の分も事業用の分もごちゃまぜで保管されていたため、事業用の証憑を仕分けするのに3日かかりました。
1日3時間、コツコツと3日間やって、だいたい証憑類(レシートなど)5,000枚以上を仕分けしていました。
クレカを使うと、領収書とクレカ使用明細と2枚出てくるので、本当にきつかったです…。
医療費もしっかり残っていましたが、こちらは最早自分でやるパワーがなく、頼りになるパートさんにお願いしました。



レシートもパートさんにやってもらえばいいんじゃないですか?
そうなんですが…どれが事業用かを見極める作業がちょっと難しいもので。
1年分やったら、その勢いで結局自分でやってしまいました。
白色申告なので会計仕訳は不要なのですが、集計作業は必要でして、そこはパートさんと力を合わせてやりました。
まぁ、自分でレシート類見た方が、その後で結局はDさん本人と相談するときに実態に即した話ができて良いんですよね。
ということで、過去10年無申告だった案件でしたが、その中でもご本人の証憑類の保管・預金の多さ、税務調査前に申告できた、という点でラッキーな案件でした。
無申告の相談はお気軽に…とは行かないかもしれませんが、とにかく相談してみてください。